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プロフィール

槇野知宏

Author:槇野知宏
宮崎県児湯郡生まれ。
宮崎県児湯郡在住。

「名探偵コナン」
「まじっく快斗」
「BLACK LAGOON」
「艦隊これくしょん」
「ファイアーエムブレム」シリーズ
「ペルソナ」シリーズ
(特に3と4)
「マクロスF」
「パワプロ」シリーズ
「田中芳樹」
「池波正太郎」
「司馬遼太郎」
「有川浩」
「TUBE」
「山本正之」
「NO-PLAN」
「クラシック」
「プロレス」
「中日ドラゴンズ」
を偏愛する会社員
その実態は、単なるオタク。

年を取る毎に深みにハマってますが、これも人生、問題ない、と開き直ってます(笑)

PASSの掛かっている日記(小説)につきましては「PASSについて」をご覧下さいませ。

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2012/02/23 (Thu) 08:23
銀河探偵伝説(2)

 第四艦隊を撃破した帝国軍は時計回りに艦隊針路をとって第六艦隊の後背を衝こうとしていた。
これは第六艦隊との距離が近いだけでなく、艦隊数も第四艦隊に次いで一万三〇〇〇隻と少ないからである。
本来だったら二倍の敵に取り囲まれて戦わなければならなかったが、総司令官たるラインハルトの作戦行動の迅速さによって第四艦隊を壊滅させ包囲陣の一角を粉砕した。
戦闘後に許可された食事の際には、ラインハルトの指揮能力を褒め称える声が食堂の各所から聞こえる。

「前の部隊は貴族のお坊ちゃんが指揮官で戦死しかけたんだ。今回も貴族のお坊ちゃんでオレより若い・・・今度こそダメかと思ったぜ」
「そりゃ、お前さんの認識不足ってヤツよ。ま、オレも一年前『ブリュンヒルト』に乗艦した当初はそう思ったがね」
「金髪の司令官閣下が行くところ連戦連勝。今回の戦も勝ったようなもんさ」
「そうに違いないな。司令官閣下に乾杯(プロージット)」
「ローエングラム元帥閣下に乾杯」
「おいおい。まだ“元帥”閣下じゃないだろ?」
「あ、そうか。まだ“上級大将”閣下だったけな」

戦闘中という事なのでアルコールの類は禁止されているが、戦勝による高揚感はアルコールによる酩酊感と同様の気分を将兵に浸らせた。
先の戦闘での勝利は将兵を大いに勇気づけ、士気を一気に跳ね上げる効果を呼んだ―――それから二時間後、帝国軍は牙を剥いて第六艦隊の後背へと襲いかかる事になる。 ちょうどその頃、ムーア中将は食堂で幕僚団と昼食の最中だった。

「後方の駆逐艦より、四時方向に艦影見ゆ。識別不能、と、報告がありました」
「何、四時方向だと?」

手に持っていたナイフとフォークを乱暴に放り投げ、通信士官からバインダーを引ったくって電文を読んでいるウチに、先ほど無礼千万な若い准将が言った事が頭を過ぎった。

『後背―――特に四時か五時方向に気をつけろ』
「そんなバカな話があってたまるか。敵は我々の行手に間違いなくいるのだ」

そう呟いたものの、正体不明の艦影、と、いうのが引っ掛かるので、食事を中断して艦橋へ向かう。

「やはり第四艦隊は敗れたのだろうか?」
「帝国軍が新たな別働隊を編成して、こちらへ向かわせたのでは?」

艦橋へ通じるエレベーターの中では幕僚が一言二言と不安な声を漏らすが、ムーアは会話を無理矢理中断させるかのように大声を上げた。

「どいつもこいつもバカな事を言いおって!我が軍は帝国軍より圧倒的優位な条件で戦っているのだ。何を狼狽えている」
「しかし第四艦隊との連絡がつかない以上、艦隊の警戒を強化すべきではありませんか?」

ムーア自身も第四艦隊との通信がとれない事を疑問に思っていたが、敵の通信妨害が激しいからだろう、と、いう認識しかない。
しかしパストーレの勇猛果敢な用兵を熟知している故、第四艦隊が敗北し、司令官を含む高級指揮官の大部分が戦死している事など夢にも思っていなかった。

「後方部隊に情報収集をさせておけ。対策はそれからだ」

部下にそう命じた時、旗艦「ベルガモン」に震動が走る―――それは艦が被弾した時の震動にあまりに類似していた。

「な、何事だ?」

指揮官が周囲にそう漏らした瞬間、エレベーターが目的地に到着する。慌てて艦橋に駆け込んだ第六艦隊首脳の耳目に飛び込んで来たのは、通信回路から雑音と共に流れる、敵艦隊来襲、と、言う報告、そして周囲の護衛艦が爆発四散する光景だった。
司令官をはじめとする幕僚は慄然となった。通信の混乱、そして護衛艦群の被弾は帝国軍が至近距離に接近している証拠である。事態を甘く見ていた事を後悔しながらムーア中将は最低限の命令を下した。

「迎撃せよ。全艦隊攻撃開始」

漸く第六艦隊の艦艇から迎撃用の中性子ビーム砲が帝国軍艦艇に殺到するが、彼らからは倍以上のビームやミサイルが同盟軍艦艇に向かっていく。
同盟軍戦闘艦艇や帝国軍のそれには各所に砲塔やミサイル類の発射口が当然の如く存在する。しかし艦艇の前部、舷側に集中し、後部にいたっては少ないのが現状である。
帝国軍より同盟軍の方がビームやミサイルの餌食となって火球と化していく率が圧倒的に多く、たちまち第六艦隊の艦列は帝国軍によって浸食される光景を見て、艦隊の維持が不可能と悟った司令官は漸く命令を下す。

「全艦、その場回頭を実施せよ」

 その場回頭とは、推進力を落とした位置から左右いずれかに方向転換する事である。
回頭途中の艦艇は攻撃が出来ないだけでなく、無防備な側面部分を相手に晒すため、その場回頭を行う場合は敵の攻撃範囲外で行うのが常識である。
敵艦隊の目の前で一八〇度反転する事は、回頭中に無防備の側面部を晒け出すため無謀極まりない。
本来なら幕僚あたりが司令官のミスを訂正すべきであろうが、ムーアは幕僚に対して服従を強制させるタイプの指揮官であった。
それ故、第六艦隊司令部は司令官の命令に唯々諾々と従うイエスマンの幕僚が多く、無謀な命令も速やかに実行される事になる。
しかし下級指揮官にとって艦隊司令部の誤断は、自分だけでなく麾下将兵の生命に直結する。特に第八一○駆逐艦戦隊司令は、第六艦隊司令官以上の戦術眼を持っているため、その傾向が一番強い。

「あのアホが!そないな事しようモンやったら艦隊が全滅する事が分からへんのか!!」

旗艦の艦橋内で上官にそう罵声を浴びせた平次は、その場回頭をせず、直進して時計方向に針路をとって帝国軍の後背へ回り込む旨を艦隊司令部に具申した。
ところが妨害電波の隙間をくぐり抜けてきた司令部から命令は、司令官の命に従い反転せよ、と、いう素っ気ないものであった。

「司令。艦隊司令部からは、司令官の命令に従い反転せよ、との事です」
「何やと?通信長、何度でも構わへんから、もっかい同じ事を具申せえ!」

平次の命令は実行されたが、二度目は最初と同じ返信内容、三度目は無視、そして四度目に至っては向こうから通信を一方的に絶たれてしまった。
通信の最中に「ペルガモン」の巨体が回頭を始めると他艦も旗艦に倣って回頭を始める。その様子をメインスクリーンで目撃した平次、そしてラインハルトは敵味方に分かれていながら、ムーアの誤断に対して前者は怒り、後者は侮蔑の意味を込めた一言を吐き捨てた。

「アホンダラが!」
「愚か者が」

小回りの利く小型艦艇はともかく、巡航艦、戦艦、そして艦隊旗艦クラスの戦艦と艦体が大型化するにつれて機動力や旋回能力は鈍くなっていく。
自分たちに横腹を晒した同盟軍に対して帝国軍が黙って見過ごすはずもなく、自ら墓穴を掘ってくれた敵に対して手加減することなく激烈な砲撃をもってそれに応えた。
エネルギーの束やミサイルの群れが回頭途中の艦艇に突き刺さり、彼らは何もする事が出来ず破壊されるだけの存在でしかない。回頭を終えた艦も満足な反撃が出来ぬまま敵集団に取り囲まれて爆沈する運命にあった。
そこへ帝国軍が近接戦闘を仕掛けてきた。ワルキューレや雷撃艇が接近しただけで混乱が起こり、攻撃を加えられて爆沈する艦艇が量産される度に混乱が増大する。

「やられてんねんはウチだけちゃうんか」

平次が吐き捨てたセリフ―――それは第六艦隊将兵が戦況を見て思っている事を代弁したものだった。
敵に後背を衝かれた挙げ句、艦隊司令官の判断ミスにより壊滅へ急落していく味方を守るべく奮戦していた平次の許へ司令官戦死の凶報が飛び込んできたのは一四時八分の事である。

「そらホンマに確認したんか?」
「はい。一三時五三分に巡航艦『コヒマ』が旗艦『ペルガモン』の爆沈を確認。脱出者は無し、との事です」

「ベルガモン」は回頭を完了させた直後、接近してきた雷撃艇三隻から一〇〇発近いレールガンの弾頭を撃ち込まれて、艦内をスクラップ状態にされたのである。
そのような状態ゆえに脱出者はおろか生存者はいるはずもなく「ペルガモン」はムーア中将以下の第六艦隊司令部と乗員合わせて一二一六名の棺と化して消失した。
司令官の戦死は艦隊の瓦解を意味していた。統一された指揮が出来ない以上、残存艦艇は戦隊、分艦隊単位での行動を余儀なくされ、各個撃破されるのは目に見えている。

「妨害電波のせいかも知れへんが、オレより先任の指揮官連中が何もぬかしてけぇへん。せやなかったら・・・こら腹括った方がええな」

他人事のように独語したあと、平次は先ほどの罵声とは違った声で残存艦艇に対して命令を下した。

「第八一○駆逐艦戦隊司令の服部や。これから残存部隊の指揮執らせてもらうで」

そう言うや否や、戦死した司令官の命令より的確な指示を矢継ぎ早に残存部隊に出す。

「第八一○駆逐艦戦隊は敵艦載機及び雷撃艇の迎撃に専念せえ。後衛は前衛との合流だけを考えい」
「破壊された艦を盾に使(つこ)うても構へん。味方が態勢を立て直すまでの時間稼ぎをするんや」

この時点で第六艦隊は後衛、中央部隊が殆ど壊滅状態で、前衛部隊一二〇〇隻が現有戦力でしかない。戦力差は圧倒的に帝国軍が有利なのは変わりなく、通常だったら包囲殲滅される前に撤退するのが妥当である。
しかし平次の頭の中は、生き残った艦艇を出来るだけ収容して第二艦隊と合流するという事だけしかない。即座に撤退すれば、自分たちは生き残るが苦闘中の味方は全滅。このまま留まれば、生き残っている味方もろとも全滅。

「どっちも楽(たの)しない未来予想図やな」

平次のボヤキをよそに敵の攻勢は激しく、小集団や艦艇の消息が途絶えた事が通信回線を席巻する。

「味方、なんぼ残っとる?」

指揮官の声にオペレーターが即座に反応した。

「当部隊を含めて約一五〇〇隻です」
「三時間ちーとばかしの戦闘で八五パーセントの損失・・・あと一時間何もせえへんかったら、パーペキにあの世行きやったな」

軽い口調で言ったものの、総艦艇一万三〇〇〇隻の第六艦隊が三時間で二〇〇〇隻を割るほどの大損害である。
後背からの攻撃を受けだだけでなく、総指揮官の誤断によって壊滅―――いくら同盟軍が墓穴を掘ったとはいえ、それにつけ込んで大損害を与えた敵司令官の能力は並半端なものではない。

「帝国で名将いうたらメルカッツ提督だけか思ってたが、こら訂正した方がええかも知れへんなぁ。他にもどエライヤツが誕生しつつあるで」
「六時の方向から高速接近する小型目標あり」

平次の独語と重なるようにしてオペレーターの報告が艦橋内を流れた瞬間、ざわめきが起こるが指揮官の一喝で沈静化した。

「たかが小型目標ごときで狼狽えるんやない!六時の方向へ敵が少数で回り込むような小細工をするわけがあらへん!!ねちっこく報告せえ」
「は、はい。申し訳ありません・・・し、司令、小型目標の正体は第二艦隊第五六三駆逐艦戦隊所属の駆逐艦ですっ」
「ようやっと来よったか」

安堵の溜息を漏らした司令の正面にある通信スクリーンが開いて若い士官が敬礼して答える。

『第二艦隊所属駆逐艦『クールムーン四号』の艦長・山村ミサオ少佐です。第六艦隊を第二艦隊まで誘導する役を仰せつかり参上いたしました』
「ご苦労はん。第六艦隊司令官代行兼八一○駆逐艦戦隊司令の服部や」

長ったらしい職名から全てを悟った山村少佐だったが、その事には触れず自分に課せられた任務を遂行しようとする。

『お役目ご苦労様です。本艦が先導いたしますので、その後を航行して下さい』
「分かった。その前に山村ハン、第四艦隊がどうなりよったか知らんか?」
『第四艦隊に関しましては何も聞いておりません。私の艦と同じ任務を負った駆逐艦が第四艦隊の戦闘宙域に急行しているとは聞いてます』
「と、ぬかす事は第四艦隊も第六艦隊と同じ目におうたって事やな」

そう平次が呟いた時には味方の収容も完了し、あとは帝国軍の追撃から逃れるだけでしかない。メインスクリーンに鋭い眼差しを突き刺していた平次は最後の命令を下した。

「全艦隊、耳ん穴かっぽじいてよう聞いとけ!今から第二艦隊に合流する。そん前に敵のドタマにビームやミサイルを遠慮のう叩き込んだれ!!」

司令官代行の命令は忠実に実行された。二〇〇〇隻未満の艦艇と言っても、各艦艇の主砲口径やミサイルの発射口の大きさはバラバラである。
この時、帝国軍はメルカッツ、ファーレンハイト両提督の艦隊だけでなく、後詰めのシュターデン中将、エルラッハ、フォーゲル両少将の艦隊まで突出してきており、前線は過密化の傾向にあった。
その密集地帯へエネルギーやミサイルの固まりが今までのお返しとばかりに叩き込まれ、帝国軍は一挙に混乱状態へと陥った。それを確認した平次は残存艦艇一三七一隻に急速反転を命じ、第二艦隊から分派されていた駆逐艦共々、戦場から離脱していく。
漸く態勢を立て直した帝国軍の一部が怒りにまかせて追撃を開始した瞬間、平次が時間稼ぎ用に放出した機雷に触雷して数隻の巡航艦や駆逐艦が破壊され、一部の部隊の混乱状態と重なって進撃速度も鈍った。

「これで二時間くらいは稼げたやろ・・・よっしゃ第二艦隊に合流するで」

残存艦艇の最後尾にあって味方の離脱を指揮していた平次はそう呟くと、敵が混乱から回復する前に全速力で離脱していった。

 同時刻、同盟軍第四艦隊。
所属不明の小型艦艇が高速で接近、と、警戒に出していた駆逐艦の情報に将兵全員に緊張が走る。

「一隻ですって?帝国軍の偵察の可能性も否定できないか」

そう判断した美和子は報告元の駆逐艦を経由して不審艦艇に停船するよう命じた。

『味方である事を望みたいですね』
「私だってそう思いたいけど、第四艦隊に手を差し伸べてくれる艦隊があるのかしら?」
『第二艦隊じゃないですか?』

そうね、と、頷いた美和子の耳に駆逐艦から連絡が入る。

「探知目標の識別が出来ました。艦種は駆逐艦・・・第二艦隊所属第一四一二駆逐艦戦隊旗艦『スノーウィンド一八号』です」
『第一四一二駆逐艦戦隊司令、黒羽准将です。第四艦隊のお迎えに参上致しました』

同盟軍が誇る“奇術師(マジシャン)”の顔が通信スクリーンに現れると、艦橋にいた将兵が一斉に喜びを爆発させた。

「第四艦隊司令官代行の佐藤准将よ。黒羽くん、ご苦労様」
『“鬼の佐藤、仏の高木”を救って来いってのが、工藤の要求でして・・・ご生還を信じていました』

鬼の佐藤・・・久しぶりに聞いた単語に美和子の口元が僅かに緩む。
六、七年前に士官学校で学生の指導官兼務の艦隊運用術教官をしていた頃、当時の学生からそう言われていたのを思い出したからだ。

『・・・さん、佐藤さん』

誰かに呼び戻されて通信スクリーンを見ると、渉と快斗の顔が自分を見つめていた。
前者は何かに気付いたようでニヤニヤと笑っており、後者は心配そうにこちらを見ている。

「ごめんなさい。チョット考え事をしてたの・・・黒羽くん、さっき我らが首席殿のご命令って言ったわよね?」
『第四と第六の残存兵力と第二を合流させて帝国軍と対峙しようってのが工藤のハラでしょうね。もっとも第六は分派した駆逐艦が間に合えばの話ですが』
「黒羽くん。どういう事かしら?」
『第六艦隊司令官の性格を見れば分かりますよ』
『なるほど。ムーア提督は勇猛だの豪放だの言われてるけど、粗野なだけの猪武者と評判だからね』
「・・・私が出した連絡をも無視して、予定の行動をとってる可能性が有り過ぎるわね」

この美和子の言葉には恐ろしい意味が込められていた。第六艦隊が当初の予定通り直進すれば、数に勝る帝国軍によって叩き潰されるのは明らかだ。
敵の行動などから推定するに帝国軍は第四艦隊を撃破したあと、第四艦隊に次いで数の少ない第六艦隊を攻撃―――それも後背からの直撃。
柔軟性に欠ける司令官の用兵で第六艦隊が長期に渡って帝国軍の攻勢を支えきれるわけがない、と三人は見ていた。

『でも黒羽くん。確か第六艦隊には服部くんが配属されてたと思うけど?』
『高木さん、大丈夫ですよ。帝国軍が平ちゃんをどうこう出来るワケがない・・・この件に関してはオレだけでなく工藤も同じ意見です』
「ま、ここで井戸端会議するより第二艦隊に合流した方が早いわね」

頷いた三人が通信を切って三〇分後、快斗の旗艦「スノーウィンド一八号」を先頭として美和子率いる第四艦隊残存部隊は第二艦隊に合流すべく虚空を疾走していった。



 第四艦隊は第二艦隊に合流したものの、どの艦も艦体の至るところに損傷を受けており、無傷な艦は一隻もない、という状況であった。
そのため、第二艦隊所属の工作艦や補給艦、病院船が修理、補給、治療にフル稼働状態で合流部隊と所属部隊の間を盛んに行き来している。
その光景をメインスクリーンで見ながら、目暮は第四艦隊司令代行が映る通信パネルに目を戻した。

『第四艦隊司令官代行、佐藤准将です。第四艦隊残存艦艇一四八五隻、目暮中将の指揮下に入ります』
「佐藤くん、ご苦労だった」

残存艦艇数一四八五隻―――それは目暮にとって想像を超えたものであり、彼は報告してきた美和子に事務的な言葉をかける事しか出来なかった。
定数一万二〇〇〇隻の第四艦隊が四時間程度の戦闘で九割も失うという惨状は艦隊同士の戦闘ではあり得ない事だった。
数十隻から一〇〇〇隻に満たない小集団が大艦隊に袋叩きにされたのならともかく、一万隻を超える艦隊が簡単に壊滅させられたのであるから驚く方が当然であろう。
第四艦隊が壊滅に近い損害を受けた事実は受け止めなければならないが、第六艦隊が合流すれば数の上では我が軍がまだ有利である。
そう目暮は自分に言い聞かせ、美和子に第四艦隊の戦闘レポート提出を命じて通信を終えた。通信を終えた後、彼は指揮シートに腰を下ろすと周囲に聞こえぬよう小さく呟く。

「古い戦術に囚われ過ぎたかもしれんな。老兵は死なず、ただ消え去るのみ・・・おっとっと」

自分より軍歴が長く、半世紀以上も帝国軍と戦っている老提督の事を思い出して、目暮は先ほどの言葉を脳から消し去った。



「パトロクロス」艦内、白兵戦部隊控え室。

「隊長、どうやら第四艦隊は壊滅したみたいですネ」

ジョディ・スターリング大尉の声に白兵戦部隊“薔薇の騎士(ローゼンリッター)”連隊の長である京極真大佐は読んでいた手紙から顔を上げた。

「大尉、どういう事ですか?」

浅黒い肌を持つ二五歳の連隊長は漆黒の瞳を部下に向けて説明を促す。

「さっき通路で通信員二名とすれ違った時にそういう話をしていました。詳しくは・・・隊長、戦場でラブレター読むのは感心しませんネ」
「い、いや、これは恋文などの類ではなく・・・そう激励の手紙です」

手紙の中身を見たワケではないが、謹厳実直な連隊長が時折、笑顔を見せて読んでいるのだからラブレターに決まっている。
同盟軍白兵戦部隊の中で最強と謳われる部隊の長が、統合作戦本部情報分析課の女性士官と恋仲である事は全隊員周知の事実なのだから。

「隊長、照れちゃって可愛いですネ」
「あのですね・・・」
「それくらいにしろ、ジョディ・・・いや、スターリング大尉」

冷徹な声が部屋の片隅から聞こえた。部屋の片隅で戦闘用ナイフの手入れをしている目つきの鋭い男―――赤井秀一少佐が声の主であった。

「隊長の人柄を分かってるなら、からかうのは止しておけ。それで第六艦隊の方はどうなんだ?」
「シュウは相変わらずお堅い事・・・ま、良いわ。第六艦隊に関しては連絡が全く取れていないみたい」

話によると定時的に行われていた連絡が三時間前から行われていないらしい。こちらから呼びかけても雑音が激しくて送受信不能状態が続いている。
連絡が途絶えた、雑音が激しくて送受信不能、これらから導き出される結論は帝国軍と戦闘中であるか、とうの昔に全滅したか―――この二つに一つでしかない。

「どちらにしても我が連隊が出撃出来るような状況ではありませんな」
「確かに副隊長の言う通りです。隊長のご意見は?」
「お二人の言われる通り、私たちの出番が状況ではありませんが、全隊員には何事にも即応できる態勢をとっておくよう伝えておきます」
「つまり、人手が足りないところへの増援要員、ですか?」

赤井の意地の悪い言葉に真は苦笑しながら頷く。白兵戦部隊は敵惑星及び要塞の占領、敵艦艇へ強襲接舷して内部からの無力化などが主任務である。
今回のような防衛戦及び強襲揚陸する機会が少ない時、陸戦隊要員は予備員として艦内に待機する事となる。この場合、予備員とは艦内の各部署で負傷や戦死などで欠員が出た場合に臨時要員として配置される者の事だ。

「そろそろ第一級戦闘態勢が下令されると思いますから、全隊員をこの部屋へ招集しましょう」
「分かりました。連中の溜まり場は分かりますので、その役目はお任せ下さい」
「お願いします」

赤井とジョディが部屋から退出した後、真は読んでいた手紙をジャンバーの胸ポケットに入れ、一言呟いた。

「最善の努力を尽くして、私は貴女の元に戻ります・・・園子さん」



「で、第六艦隊の状況はどうなっている?」
「それが、通信状態が悪く・・・お待ち下さい。こちら第二艦隊旗艦『パトロクロス』・・・駆逐艦『クールムーン四号』応答せよ!」

ようやく派遣した駆逐艦との連絡がついて安堵の空気が広がりかけた第二艦隊司令部だったが、通信スクリーンに映った平次の報告によって空気は一転した。

『第六艦隊司令官代行、服部平次以下残存艦艇一三七一隻。第二艦隊の指揮下に入ります』
「なっ!?ど、どういう事だ?」
『どないな事言われてましたかて、司令官以下の高級指揮官が戦死または行方不明やさかい、オレがやむを得ず残存部隊を率いてまんねん』
「司令官戦死とは本当かね?」
『事実や。一三時五三分に護衛の巡航艦が旗艦の撃沈を確認、脱出者はおらへんかった』

騒然となる艦橋でただ一人、新一は冷静に通信スクリーンに映る同期生を見ている。
彼は信頼できる友人が生き残っていた事については安堵していたが、第六艦隊が全滅に誓いほどの損害を被る事は予想していなかった。
部下の意見には耳を貸さないが、同僚や上官の意見には従う―――この第六艦隊司令官の性格を読んで目暮の意を受けた駆逐艦を派出した。
もし目暮の意見を聞けばムーアも規定戦略に拘らず合流に専念したであろう。最悪でも半数を失うと予測していたのだが、予測は悪い方向へ、そして最悪以上の結果だった。

「しかし、どんな無様な用兵をしたら全滅に近いほどのダメージを受けるんだよ?」

新一としては呟いたつもりだったのだが、その声は司令官以下の幕僚チームには筒抜けとなってしまった。
彼の回りにいた幕僚数名が驚愕の表情を浮かべたまま副参謀長に目を向けるが、逆に新一が視線を向けると慌てて目を反らした。
しかし司令官である目暮にしてみれば、帝国軍との戦闘で苦楽を共にしてきたムーアに対する暴言としか聞こえないので激しい口調で詰問する。

「工藤くん、今の発言は言い過ぎではないか!」
「戦死したムーア提督には申し訳ありませんが、私は事実を述べたに過ぎません」

確かに第六艦隊は相手より少ない兵力であり、後背を衝かれたのは事実であろう。
しかし全滅に近い損害を受けるという事は、相手の速攻に付いていけなかったか、新一の言う“無様な用兵”が、なされたかのいずれかだ。
その点を言われて目暮も一時の怒りを抑える事に成功し、目撃者に聞いた方が良いと判断して平次に問いただす。

「服部くん。何故、第六艦隊が全滅に近い損害を受けたのかね?」
『敵に後背衝かれて、その場回頭をおっ始めたっちゅうワケや。敵さんの正面に横っ腹を晒す事がどんだけ危険か分かっとるハズなんやが・・・よっぽど慌ててたんやろ』

猛将、と、称された提督でさえ、帝国軍の巧妙な用兵に付いていけず我を忘れて自滅したのである。今更ながら固定化された戦略眼の恐ろしさ、そして緊急時における指揮官の的確な判断力の大事さを考えさせられた新一であった。
その一方、第二艦隊司令部は不安と焦燥のメーターが限界点に達する寸前であった。当初の予定では三方向から帝国軍を包囲殲滅するはずであったが、逆に各個撃破の対象とされ二個艦隊が壊滅して残っているのは自分たちだけなのだ。

「第四、第六両艦隊は壊滅・・・いや全滅に近いと言った方が良いな」
「我が軍の現有戦力の約一万八〇〇〇隻。帝国軍勝ち目はあるのかよ?」
「歴戦のパストーレ、ムーア両提督がやられた相手に勝てるのか?」

幕僚間で交わされる会話は全て司令官に聞こえているのであるが、それは全て目暮が考えている事に直結している。撤退、と、いう文字が頭を過ぎらないワケでもない。
戦略的に確保する必要がない星域なら良いが、アスターテ星域は帝国軍の最重要拠点であるイゼルローン要塞に近く、同盟領侵攻の橋頭堡となるであろう。
それ以上に帝国軍へ無償で領土を提供するという事自体が、同盟軍全軍だけでなく同盟領で暮らす人々へ与える心理的影響は大きい。
敵を全滅させる必要はなく、敵の侵攻を断念させれば良い―――そう結論に達した目暮は通信スクリーンに映る第六艦隊司令官代行に目を向ける。

「服部くん、敵が第二艦隊に到達する時間はどのくらいと考える?」
『足止めした事を考慮して約二時間。はよ見積もって約一時間半ってトコや』
「なるほど・・・工藤くん、服部くんの見解に関してどう思うかね?」
「私も第六艦隊司令官代行と同じ意見です。司令官、帝国軍の接近に伴い、第一級臨戦態勢への移行を具申します」

副参謀長の具申に頷いた目暮は直ちに全艦隊に対して第一級臨戦態勢への移行を命じる。上司の声を聞きながら新一は自分に与えられたスペースにある戦術コンピュータの端末を見て呟いた。

「最悪の事態を考慮して戦術コンピュータ回路に何個か作戦を入力したが、万が一のために残しておくか」

その声は艦橋の喧噪とエアコンディショニングの機械的な風に紛れ、誰の耳にも届かなかった。



 帝国軍との会敵まで二時間ないし一時間半―――それを知った第二艦隊の動きは慌ただしくなった。
艦隊全周囲へ警戒用として配備していた駆逐艦を偵察艇へと変更、合流した第四、第六両艦隊の再編成、そして全将兵の第一級臨戦態勢への移行。

「全艦配置完了しました」

 麾下の各部隊からの報告は参謀を経由して目暮に届けられ、第二艦隊は第一級臨戦態勢から総力戦準備へとに移行していた。
張り詰めた緊張感が艦橋全体を覆っている中、新一は冷静にこれまでの帝国軍の艦隊行動及び戦況推移を思索している。
会戦当初、帝国軍は同盟軍三個艦隊に三方向から包囲されていたが、完全な包囲陣ではないにも関わらず、一部を除く同盟軍将兵は、勝利した、と、錯覚してしまった。
机上での作戦は完璧であっても、最初から、帝国軍は動かない、と、決めつけてしまった時点で勝敗は決していたと言っても過言ではない。
確かに歴戦の艦隊司令官からみれば、帝国軍の敗北は必至であるが、視点を変えれば同盟軍の方にこそ敗北する要素が多いとも言える。
歴史的に専門家が素人に遅れをとったという事例は多々ある。これは専門家が長所より短所を、好機を危機としてみてしまうからだ。
要するに同盟軍首脳部は帝国軍指揮官の指揮能力を過小に評価してしまったのだ。それだけではなく敵を三方向から包囲殲滅するという既定戦術、そして包囲された敵は動かないという固定観念に縛られて壊滅。
同盟軍は負けるべくして負けたと言うべきであろうが、それ以上に敵の指揮官―――ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将に並々ならぬ将才があるのだろう。

「知将、猛将を越えた存在であり、部下に不敗の信仰を抱かせる指揮官を名将と呼ぶ。帝国にはローエングラム伯という名将が誕生しつつあるが、それに比べて我が軍はどうかな?」
「偵察艇から連絡!敵艦隊発見。我が方との距離、至近、以上っ!!」

独語した新一の声と索敵オペレーターの声が重なったのはその時だった。一気に艦橋全体が緊張感に包まれ、目暮の口から射程距離に入ったら攻撃するよう指令が下される。
マイクを通じて流れる報告を一字一句聞き逃すまいと艦橋要員全員の耳がただ一点、メインオペレーターチームに集中する。

「一時間四六分で敵艦隊到着・・・そして方角は一時から二時」
「敵艦隊の方角一時二〇分、俯角一一度・・・なお、その方角に展開していた偵察艇からの通信途絶」

新一は小さく呟いた。彼が予想していたとおりである。第六艦隊右側背部から襲いかかった帝国軍は左前方へ抜け、緩やかなカーブを描きつつ最後に残った第二艦隊へと矛先を向けたのだ。
第二艦隊が直進する以上、帝国軍が一時から二時方向に現れるのは当然であり、予測が当たったところで新一は別に感激する素振りすら見せずにメインスクリーンへ視線を注いでいる。

「敵の戦力、約二万。あと八分後に有効射程圏内に入ります」
「な、何・・・帝国軍は二個艦隊と戦闘していたんだそ?その数に間違いはないのか?」
「はい、間違いありません。破壊された偵察艇から送られた情報を総合しても帝国軍は約二万隻・・・正確には一万八六七四隻です」

第四、第六艦隊は帝国軍の常識外な行動―――大部分の同盟軍首脳部の見解―――で対応が遅れ、迎撃できたのが少数の部隊であった事が敵に対する損害を少なくさせていたのだ。
二個艦隊を失い士気の低下が著しい同盟軍、逆に二個艦隊を壊滅させ士気が高まっているであろう帝国軍。数的には互角だが、士気においては圧倒的に不利。戦闘開始前から司令部を澱んだ空気が包む。そこへ目暮の叱咤の声が飛んだ。

「戦闘前から司令部がそういう体たらくでどうするか!」

司令官の発言に正しさを見出した新一が上司に顔を向けた時、新たな声が彼の鼓膜に響く。

「帝国軍、有効射程距離内に入りました」
「撃て(ファイヤー)!」

 目暮の号令と同時に同盟軍は一斉砲撃を開始し、帝国軍もそれに呼応するかの如く砲撃を開始する。
エネルギーの光芒がメインスクリーンに広がり、司令部、艦橋要員の視力を一時的に奪ったその時、帝国軍から放たれた光の波に艦隊旗艦の至近距離にいた戦艦が押し潰されて爆発四散した。
半瞬の差をおいて「パトロクロス」に爆発した戦艦の爆風が襲いかかり、炸裂したエネルギーの波濤の直撃を受けた「パトロクロス」はあらゆる方向へ揺すぶられる。
全長一〇〇〇メートルを越える巨体が激しく揺れるという事は、艦内の将兵には地震並のエネルギーが襲いかかるのと同様であり、乗員は悲鳴や怒声を撒き散らしながら床に転倒し、近くの将兵や機材に衝突していく。
視界が閃光によって遮られ、旗艦が激しく揺れた瞬間、新一は座っていた椅子から放り出されて艦橋の床へ叩きつけられた。

続く


注:「銀河英雄伝説」は田中芳樹先生、「名探偵コナン」「まじっく快斗」は青山剛昌先生の著作物です。
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