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プロフィール

槇野知宏

Author:槇野知宏
宮崎県児湯郡生まれ。
宮崎県児湯郡在住。

「名探偵コナン」
「まじっく快斗」
「BLACK LAGOON」
「艦隊これくしょん」
「ファイアーエムブレム」シリーズ
「ペルソナ」シリーズ
(特に3と4)
「マクロスF」
「パワプロ」シリーズ
「田中芳樹」
「池波正太郎」
「司馬遼太郎」
「有川浩」
「TUBE」
「山本正之」
「NO-PLAN」
「クラシック」
「プロレス」
「中日ドラゴンズ」
を偏愛する会社員
その実態は、単なるオタク。

年を取る毎に深みにハマってますが、これも人生、問題ない、と開き直ってます(笑)

PASSの掛かっている日記(小説)につきましては「PASSについて」をご覧下さいませ。

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2012/03/13 (Tue) 18:15
銀河探偵伝説(6)

 イゼルローン要塞とは帝国軍の重要な軍事拠点の名称を指す。
帝国首都星オーディンから六二五〇光年離れた距離に恒星アルテナがあるが、これは惑星を持たない単一の太陽である。
ここに直径六〇キロの人工天体を建設し、銀河帝国が基地としたのは、その地理上の重要性にあった。
銀河系を天頂方向から見ると、イゼルローンは帝国の勢力が自由惑星同盟の方へ伸びた、その周縁部の三角形を成す頂点付近に位置している。
この一帯は宇宙空間航行上の難所であり、かつて同盟の建国者たちが多数の同志を失った場所なのだ。
その事実は帝国の要人たちを満足させ、この宙域に同盟―――彼らからすれば叛乱軍であるが―――を威嚇する軍事拠点を築く、という意図を固めさせる結果になった。
変光星、赤色巨星、異常な重力場等が密集する中に細い一本の回廊があり、その中心にイゼルローンが堂々と居座っている。
イゼルローン要塞を経由することなく同盟から帝国へ向かうにはフェザーン自治領を経由せねばならないのだが、無論それを軍事行動に使用するワケにはいかない。
この二つの回廊以外にも同盟と帝国を結ぶルートが見出せないか、と同盟政府も軍部も腐心したものの、星図の不備と帝国及びフェザーンの妨害がその意図を挫折させてきた。
帝国はともかく、フェザーンにしてみれば中継交易地としての存在意義がかかっているため「第三の回廊」が発見されてはたまったものではない。

 かくして帝国領へ侵攻せんとする同盟軍の最初の目的はイゼルローン要塞を攻略し、ここを橋頭堡とするのが前提条件となる。
四半世紀の間に大規模な攻略作戦を六度敢行し、ことごとく撃退された。そのため帝国軍に、イゼルローン回廊は叛乱軍将兵の死屍を以て舗装されたり、と、豪語させるに至っている。
新一は宇宙艦隊司令部作戦参謀として、少佐の時と大佐の時にイゼルローン攻略作戦に参加している。二回とも死者が大量生産される光景を目撃し、強引な力攻めの愚かさを知る事になった。
イゼルローンは要塞であると同時に、イゼルローン駐留艦隊、と称される一万五〇〇〇隻の艦隊を擁している。
要塞司令官と駐留艦隊司令官は大将であるが、同じ職場に同格の司令官が二名いるワケだから角突き合わせる事は必定であり、そのあたりに付け込む隙がある、と、新一は読んでいた。
前回のローエングラム伯のアスターテ星域、その前の帝国軍のティアマト、ヴァンフリート星域への侵攻はイゼルローン要塞を前進基地としたものである。
同盟にとって不吉極まりない帝国の軍事拠点は何としてでも陥落させなければならないが、新一に与えられた兵力は「敗残兵と新兵の混成半個艦隊」でしかなかった。 「しかし工藤くんがこの任務を承知するとは思わなかったわ」

統合作戦本部内にあるカフェテリアの一角。部隊編成書を捲りながら志保は正面に座る新一にそう言った。
過去六度に渡って攻略を試み、六度とも失敗に終わったイゼルローン要塞。それを寄せ集めの半個艦隊で攻略せよ、と、言うのである。
幼馴染みで士官学校の一期先輩に成功の可否を問われても、さあな、と、話をはぐらかせる返答が女性軍官僚の両目を僅かに細めさせた。

「成算があるんじゃないの?」
「壁に耳あり、と、言うからな・・・秘密だ」
「蘭さんは教えてくれるんでしょう?」

志保は新一の傍らにいる蘭に攻略の糸口を求めたが、あっさりと拒絶された。こういう場合は素直に引き下がっておくのが賢明である。

「まあ、良いわ。用意する物資があったら遠慮なく言って頂戴。袖の下無しで話に乗るわよ?」
「かつて鹵獲した帝国軍の軍艦一隻と軍服を二〇〇ないし三〇〇着・・・用意出来るか?」

期限を聞いた志保に、三日以内、と、答えたところで彼らに近づく人影があった。
彼に気付いた新一は、もう一つの要求を統合作戦本部次席副官に突き付ける―――“薔薇の騎士(ローゼンリッター)”連隊を第一三艦隊の指揮下に入れて欲しい、と。

「了解。全て三日以内に揃うよう手配するわ・・・京極くん、工藤くんは人遣いが荒いから苦労するわよ?」

背後に立つ士官学校の同期生である“薔薇の騎士”連隊長にそう言うと、志保は席を立って自分のオフィスへと向かった。


 艦隊の質がどうにもならない以上、人材でカバーしなければならない。
その点は服部本部長や志保も考えていたようで、新一の指揮下に入る幕僚や中級指揮官は錚々(そうそう)たる面々が名を連ねた。
艦隊副司令官は艦隊運用の達人であり、アスターテ星域会戦時に第四艦隊で善戦した佐藤美和子准将。
参謀長は剛直で理論家肌の性格、そして“絶対零度のカミソリ”と呼ばれるほどの冷徹怜悧さ故に周囲から敬遠されがちな白馬探准将。
副参謀長は探の冷徹さに萎縮しない稀有な人材で“紅き魔女”の異名を持つ小泉紅子大佐。
第一分艦隊司令・兼・先任分艦隊司令は、粘りの戦いを得意とし、艦隊運用の名人でもある高木渉准将。
第二分艦隊司令は、ダイナミズムに富んだ速攻と一撃強襲を得意とする服部平次准将。
第三分艦隊司令は、高速艦艇の機動力を駆使した奇襲、ゲリラ戦を得意とする黒羽快斗准将。
探には常識論と正論を提示してもらい、紅子は情報収集及び分析、美和子は艦隊運用、渉は副司令官の補佐と艦隊防御の全権を一任、平次と快斗には攻撃における要になってもらうというのが新一の意図だった。
人材は揃いはしたものの、第一三艦隊の艦艇及び将兵数は通常の半数だけではない。その将兵の内容は、アスターテ星域会戦で敗北した第四、第六艦隊の将兵、そして軍の教育機関を修業したばかりの戦闘経験が全くない新兵である。
傍から見れば艦隊司令官は二〇代前半の孺子(こぞう)で主要幕僚も全て二〇代―――他の提督たちが驚き、呆れた挙げ句に嘲笑するのも当然だった。

赤ん坊に素手で猛獣を倒せという事らしいぞ。やらせる方もやらせる方だが、やる方もやる方だ。七三〇年マフィアを気取ってるつもりだろうが、上手くいくかどうか。コイツは良い見物だろう・・・

そのような声は第一三艦隊司令部の耳に入るが、幕僚たちの対応は様々である。
平次や快斗などは、お前等が吠え面をかくんだよ、と、広言し、司令官より冷静な探と紅子は冷笑をもって嘲笑に報いているほどだ。

「言わせたいヤツに言わせておけばいい・・・ま、好き勝手言ってる連中のド肝は抜いてやるさ」

新一は幼馴染みの副官にそう言っただけであったが、年長に属する美和子と渉は別の意味で楽観視していなかった。
彼女たちの耳にも嘲笑は入っていたが新一から艦隊運用の全権を任されていたため、急編成された混成艦隊が一隻も脱落する事なく目的宙点まで無事かつ迅速に行動させる事だけしか考えておらず、そんな話に乗るヒマがなかったのである。
ただ一人、新一を弁護してくれたのは第五艦隊司令官アレクサンドル・ビュコック中将だった。
年齢は七〇歳、頑固かつ短気な事で知られているが、艦隊用兵の手腕は老練と称されるほどの愛想の悪い白髪の老提督である。
将兵から“おっかないオヤジさん”と、言われる老人が高級士官クラブで新一と第一三艦隊を笑い話の種にしている同僚に向かってこんな事を言ったらしい。

「後日、恥じ入る事がなければよいがな。お前さんたちは大樹の苗木を見て、それが高くない、と、笑ってるようなものじゃからのう」

その言葉を聞いた一同は静まり返った。アスターテやそれ以前の戦闘で示された新一たちの才幹を思い出したためである。
それぞれの胸にバツの悪さを抱えて彼らが散会した後、ビュコックは同席していた第一〇艦隊司令官ウランフ中将に言ったものだ、新一は孫みたいな存在じゃからな、と。

「おや、工藤少将をご存じで?」
「新一だけでなく彼の両親もじゃよ。ウランフ提督は彼の両親がどういう人物かご存じかな?」
「確か父親は推理小説家の工藤優作、そして母親は既に引退したものの“伝説の女優”として名高い藤峰有希子でしたな」
「夫婦揃って野暮の骨頂で読み始めた推理小説にハマってしまってのう。たまたま出版記念パーティーに呼ばれた時に新一と出会ったんじゃよ」
「初めて彼に会った時の感想はどうでした?」
「利発そうな良い子だったよ。ワシは他人に戦歴などを話す趣味はないのだが、新一の何もかも吸収して学び取ろうという目には叶わなくてのう」

楽しげに懐古談を始めるビュコックの顔は“おっかないオヤジさん”ではなく“好々爺”へ変貌している事に太古騎馬民族の末裔とされる猛将は気付いた―――このような中、第一三艦隊の陣容は着々と整えられて行く。
 宇宙暦七九六年四月二〇日。
惑星ハイネセン周辺の宙域には六四〇〇余の戦闘艦艇が集結していた。
既に全艦艇は発進準備を済ませており、後は司令官の発進命令を待つだけである。
発進予定時刻は同日一九時。予定時刻が近づくにつれ、第一三艦隊旗艦「ヒューべリオン」の艦橋内は過度の緊張と高揚感、そして少数の沈着冷静が混ざった空気に包まれていた。

「提督、まもなく発進予定時刻です。既に艦隊は発進準備を完了しております」

懐中時計を手にした探の言葉に、分かった、と、答えた新一は傍らに立つ蘭に指示を与える。

「毛利大尉。発光信号で、第二、第三分艦隊を先頭として逐次発進せよ、と、全艦隊に通達してくれ」
「復唱します。第二、第三分艦隊を先頭として逐次発進せよ、以上を発光信号で通達します」

その声に心地よさを感じた新一は、頷いて了承の意を伝えた。旗艦からの発光信号を受信した第二、第三分艦隊が前進を始めたのは四月二〇日一九時ちょうど。
こうして工藤新一少将率いる第一三艦隊はイゼルローン要塞攻略のため、惑星ハイネセンを出撃した。


公式発表では帝国方面国境と反対側の辺境星域において新規に編成された艦隊の大規模演習とされている。
そのためハイネセンからイゼルローンと反対方向へ三日間航行し、そこから有人星系を避けるように一九回の長距離短距離ワープを繰り返してイゼルローン回廊へ進入する事に成功した。

「四〇〇〇光年を二四日・・・悪くねえな」

急遽編成された艦隊が一隻の脱落も出さず、目標宙点まで到達しえたのは賞賛に値するものであろう。
最もこの功績は艦隊運用の総責任者である美和子と、その補佐役である渉の手腕によるものであった。
新一は艦隊運用の全権を年長者二名に任せ、彼女たちがその方面の事に関して具申して来たら黙って承認するだけだった。
その間、彼の頭脳はイゼルローン要塞攻略法ただ一点のみに集約されている。
計画を司令官公室で艦隊首脳部の七名―――美和子、探、渉、平次、快斗、紅子、真―――に打ち明けた時、副司令官と先任分艦隊司令、白兵戦部隊指揮官は絶句したが、他の者は黙って司令官を見ている。
第一三艦隊司令部主要幕僚の中で一番の年長者は美和子であり、次いで渉、真と続く。もっとも司令官との年齢差は副司令官が四歳、先任分艦隊司令は二歳、白兵戦部隊指揮官は一歳でしかない。
そのため艦隊首脳の会議となると、上司と部下の会話、ではなく、友人同士の雑談、と、なってしまう欠点があったが、その点は司令官以下の幕僚は理解していた。

「結論から言うと、コイツは作戦というより詭計、と、いうより小細工だな。しかし難攻不落のイゼルローンを占拠するにはこれしかない」
「なるほど・・・堅牢な要塞に拠るほど人間は油断するもの。成功の可能性は大いにありますね」
「工藤くんの話は分かったけど、万が一失敗したらどうするの?」

探に次いで口を開いた美和子の質問は当然の事だったが、新一はあっけらかんと言ってのけた。

「その時は可及的速やかに撤退するだけです」
「しかし、それは消極的過ぎじゃ・・・」
「佐藤准将のお言葉も一理ありますが、元々寄せ集めの半個艦隊でイゼルローンを占拠しろというのが無理難題ですからね」

そう言うが司令官の眼には、失敗はしない、と、いう光に満ちているのを公室にいる全員が悟った。

「作戦の中核となるのが“薔薇の騎士”連隊ですが・・・京極さん、要塞内部の方はお任せします」

もともと“薔薇の騎士”連隊は帝国から同盟へ亡命してきた貴族や平民の子弟を中心に創設された白兵戦部隊で半世紀の歴史を有しているが、その歴史は光と闇に満ちたものと言っても過言ではない。
歴代の体調は一二名。四名は戦死、二名は将官に昇進したのち退役、六名は旧祖国へ奔った―――密かに脱出した者もいれば、戦闘中にそれまでの敵と味方を取り替えた者もいる。
真は第一三代目の連隊長で連隊創設以来初となる生粋の同盟人の連隊長であるが、これは連隊創設以降、一二名の連隊長のうち半数が旧祖国へ亡命する事態を重く見た軍当局が連隊内の人事を刷新した結果であった。
この方法は内部で新旧二派の派閥抗争を生む恐れもある危険な方法ではあったが、真の右腕である副連隊長赤井秀一少佐の巧妙な人事配置と真自身の武勲と人柄によって現在のところ、彼は連隊員から抜群に慕われている。

「分かりました。要塞の占拠については微力を尽くすとしましょう」

真が力強く請け負ってくれたので後は実務的な細部事項の検討に入るはずであったが、その流れを止めたのは白兵戦部隊指揮官と同じ浅黒い肌を持つ分艦隊司令と、司令官と似た風貌を持つ分艦隊司令だった。

「工藤、ちぃーとばかしエエか?」
「何だ?」
「今回、自分が今回、課せられた任務は無茶苦茶なものやった。新兵と敗残兵の寄せ集め半個艦隊を率いてイゼルローンを陥落せっちゅうのはな。拒否しても自分を責めるヤツはおらへんはずや。せやけど・・・それを承諾したんは何故や?」
「そうだな、オレもそれを知りてえ。工藤の事だから出世とか名誉じゃねーよな?」
「出世とか名誉?そんなんじゃねーよ。国防委員長(トリューニヒト)に対する嫌がらせに決まってるだろ」

新一の冗談ともつかない一言に幕僚から苦笑が漏れる。
彼とトリューニヒト氏の間にある種の暗闘があったのを知っていたからだ。

「ま、さっきのもあるが、イゼルローンを占拠したら帝国軍は同盟領への侵攻ルートを断たれる。同盟の方から逆侵攻という馬鹿げた真似をしない限り、両軍は衝突したくとも出来なくなる」
「そうなれば、かつて我が軍が数度に渡って実行したイゼルローン攻略戦を帝国軍が、皇帝陛下の威信、と、やらにかけて実行するでしょうね、きっと」
「白馬の言う通りになる可能性が大きい。だから同盟政府が軍事的有利な地歩を占めたところで、帝国との間に何とか和平条約なりを結ぶ努力をしてくれれば良いんだがな。そうすればオレは蘭に・・・」

司令官の発した言葉の一部に今度は全ての幕僚が一斉に吹き出した。
しかも人前で滅多に笑う事がない探と紅子、真まで肩を震わせて笑いを堪えている。
自分の自爆に気付いた新一は、他の幕僚より爆笑というか馬鹿笑いをしている平次と快斗を眼光で黙らせると、場を収めるかのように付け加えた。

「とにかく政府の外交手腕にもよるが、帝国との間に和平が成立した場合・・・最低でも数十年くらいの平和は勝ち取れる」
「恒久的平和、と、いう言葉は聞こえは良いけど、人類の歴史において成立した例がないからね」
「高木准将の仰る通りです。要するにオレの希望は、たかだか数十年の平和です。それでも、その十分の一の期間の戦乱よりは遥かにマシだと考えてます。オレが平和を望むのは、好きな相手と共に人生を歩きたい・・・ただそれだけです」

新一が口を閉ざすと沈黙が降りたが、それも長くは続かなかった。

「なかなかの名演説やったで、工藤」
「副官に公開プロポーズたぁ・・・やるねえ」

艦隊司令部内のムードメーカー的存在の二人に散々と冷やかされた司令官が反撃に転じた。

「オレの事よりオメー等はどーなんだ?未だに、ただの幼馴染み、と、言い張ってるらしいが、オメー等の態度を見てたら、幼馴染み以上です、近づいたらぶっ飛ばす、って、オーラが見え見えなんだよ」
「そうですわね。ハイネセンでは彼女たちが毎朝官舎まで起こしに来て、朝食の支度までするとか・・・」
「う、うるさいわい。あれは和葉のヤツがオカンに頼まれとるだけや!」
「あ、あれは青子が勝手にやってんであって、オレは何も知らねえよ!」

顔を真っ赤(一人は赤黒く)させながら反論する分艦隊司令二名を見て、ニヤリと笑うと新一は改めてイゼルローン攻略の細部事項の検討に入った。


 七名を下がらせると、新一は副官の蘭を呼んだ。
新一と蘭はプライヴェートでは幼馴染みで互いの名前を呼び合っているが、公務では艦隊司令官と副官という上下関係である。
その点を彼女は十分わきまえており、幼馴染みの青年に対しては上司に対する言葉遣いで接していた。
蘭の態度は新一から見れば新鮮に映るものの、周囲に人がいるのならともかく、二人っきりの時くらい普段通りで良いだろう、と思う。

「蘭、コーヒーを淹れてくれないか?」
「閣下、公務中です。公私のけじめはつけて下さい」

副官の正論を聞いた司令官は彼女の目を見ながら、毛利大尉、と、呼んだ。
瞬間的に直立不動の姿勢をとる蘭に対して、彼が告げた事は、オレと二人だけの時は名前で呼ぶように、と、いう言葉である。

「閣下のご命令とあれば・・・」
「閣下じゃねえよ。新一だろ、蘭?」

唇の片方をつり上げて笑みを浮かべる新一の顔を見た蘭が根負けしたのは十秒後の事だった。

「そういうワケだから、コーヒーをヨロシクな。砂糖は・・・」
「角砂糖半個分。二〇年近く新一の嗜好は全てお見通しよ」

ブラックコーヒーを愛飲している司令官が考え事に没入する際、角砂糖半個分をコーヒーに入れる事は幼馴染みの副官の記憶に深く刻み込まれている。
そりゃそうだよな、と、苦笑した新一は公室の横にある給湯室に入っていく蘭の背中を見ながら、手にしていた資料を執務机の脇に移動させてコーヒーの登場を待つのだった。

「蘭は今回の作戦についてどう思う?」

運ばれてきたコーヒーカップから漂う芳香を楽しみつつ、新一は目の前の椅子に座る副官にイゼルローン攻略作戦について聞いてみた。
傍から見れば無謀極まりない作戦なのだが、蘭は彼以上の確信を持って成功を断言したものである。

「どうしてそう自信満々に言い切れるんだ?」
「子供の頃、新一が私に絶対的な信頼を植え付けてくれたお陰かな・・・」
「あの事か?蘭を長時間連れ回したお陰で母さんと小母さんからこっ酷く怒られて、暫く母さんたちの顔がまともに見られなかったっけな」

 あの事とは、今から二〇年近く―――新一と蘭の二人がまだ小学校(プライマリー・スクール)に進学する前の事。
ハイネセン市街を探検する、と、言って、出かけたは良いが、来た事もない地域などを歩き回った結果、当然のように道に迷ってしまった。
泣き出した蘭に対し、新一は自信満々に宣言したものである―――オレが家まで連れて帰ってやるから泣くな、と。
その後、彼女の手を握り締めて家まで帰り着いたは良いが、あちこち歩き回ったため着ていた服はドロまみれで帰宅が遅かったため、二人とも自分の母親から説教を受けたのは言うまでもない。
その頃から新一の胸中には蘭に対する思いの変化が芽生え始めていた―――幼馴染みから一生涯かけて守り抜くべき女性(ひと)へ、と。

「今回は本部長やトリューニヒトの思惑が絡んでるけど、蘭の信頼には応えねえといけねえな」

そう言って新一は漸く、蘭が淹れてくれたコーヒーを口にした。



 イゼルローン要塞には二名の帝国軍大将がいる。
要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将、そして要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト大将である。
年齢は共に五〇歳、大将への昇進年度、長身というのも共通しているが、唯一違いを挙げるとすればシュトックハウゼンの方がゼークトよりひとまわり細い。
両者の仲は親密ではなかったが、これは個人的資質というより伝統的なものだった。
同一の職場に同格の司令官が二名いるので、角突きあわせないのが不思議なくらいである。
上司の感情的対立は部下にも波及していたが、難攻不落のイゼルローン要塞を支えているという軍人の誇りと叛乱軍に対する闘志が、かろうじて両者の間に橋を架けていた。
実際、要塞守備隊と駐留艦隊乗員は互いを軽蔑し罵り合ってはいたが、同盟軍の攻撃があると功を競って譲らず、その結果、おびただしい戦果を挙げてきたのである。
要塞司令官と駐留艦隊司令官を一人に兼任させ、指揮系統を一本化しようという軍政当局の組織改革案は出されるたびに潰されてきた。
司令官職が一つ減るというのは高級軍人にとって問題であったし、何より今まで両者の対立が致命的な結果を招いたという事例がなかったからである。

 標準暦五月一四日。
イゼルローン要塞の中央指令室では要塞司令部の要員が慌しく各所を走り回っていた。
四八時間前から要塞周辺の通信が撹乱され、叛乱軍が接近してきているのは疑問の余地がないものの、攻撃の兆候が一向にない。
右往左往する要塞司令部要員を横目に彼らの上司と、駐留艦隊司令官は幕僚と共に今後の対処法について協議するべく中央指令室に来たのであるが、話は建設的な方向へは進まなかった。

「敵がいるから出撃する、と、卿は言うが、その位置が分かっていないではないか?それでは戦いようがなかろう」

シュトックハウゼンがそう言うと、ゼークトが反論する。

「それだからこそ、敵が潜んでいる場所を探すために出撃するのだ。もし叛乱軍が攻撃して来るとなれば、前回同様かそれ以上の艦隊を動員しての事だろうな」

ゼークトの言に満々たる自信を込めてシュトックハウゼンが頷く。

「そしてまた撃退される。今度来ても六回が七回に数が加算されるだけだ」
「この要塞は実に偉大だな」

暗に、お前が有能だからではない、と、駐留艦隊司令官は言っているのだ。

「とにかく敵がイゼルローン回廊にいる事は事実なのだ。艦隊を動かして探ってみたい」
「だが、どこにいるか分からんでは探しようもあるまい。もう少し様子を見てはどうだ」

話が何の接点も見出せず平行線を進んでいた時、通信オペレーターからシュトックハウゼンに連絡が入った。回線のひとつに奇妙な通信が入って来たというのである。
妨害が激しく、通信は幾度となく途切れたが、総合すると次のような事情である事が判明した。
帝国首都オーディンより重要な連絡事項を携えた巡航艦がイゼルローンに派遣されたが、回廊内において叛乱軍と遭遇。要塞からの救援を要請する、と―――この報告に二人の司令官は顔を見合わせた。

「回廊内のどこか判明せんが、これでは出撃せざるをえん」

 ゼークトは太い喉の奥から声を絞り出した。

「しかし大丈夫か?」
「どういう意味だ。俺の部下は安全だけを願う宇宙モグラ共とわけが違うぞ」
「それはどういう意味だ?」

両者が不快げな表情を突き合わせている頃、その後方の席に座る幕僚たちは、またか、と、いう表情を浮かべる。昔も今も要塞司令官か駐留艦隊司令官のいずれかが余計な一言を吐いて場の空気を悪くする事があったからである。
ゼークトが艦隊出撃の命令を出し、理由を説明している間、シュトックハウゼンはあらぬ方向を眺めていた。駐留艦隊司令官が話し終わった時、彼の幕僚の一人が席から立ち上がった。

「お待ち下さい、閣下」
「オーベルシュタイン大佐か」

ゼークトの声には一片の好意もなかった。半白の髪、血の気の乏しい顔、時として異様な光を放つ義眼、沈着冷静を通り越して陰気を絵に描いたような男、その全てが気に入らない―――彼は着任したばかりの幕僚を嫌っていた。

「何か意見でもあるのか・・・よかろう、言ってみろ」

上官の投げやりな声を、オーベルシュタイン大佐は意に介しなかった。

「はい、では申し上げます。これは艦隊を要塞から引き離すための罠と思われますので出港せず、状況をみるべきです」
「罠だと?出港すれば敵が待っている。戦えば負けると言いたいのか、貴官は?」
「そんなつもりは・・・」
「では、どんなつもりだ?我々は軍人であり、戦うのが本分である。一身の安全を求めるより、進んで敵を撃つ事を考えるべきであろう。まして窮地にある味方を救わんでどうするか!」

オーベルシュタインに対する反感もあり、皮肉っぽい表情で事の推移を見守るシュトックハウゼンへの手前もある。
それに元々ゼークトは見敵必戦の猛将タイプで、要塞に篭もって敵を待つなど性に合わなかった。それでは艦隊勤務になった甲斐がない、と、思っている。

「ゼークト提督、オーベルシュタイン大佐の言も一理ある。敵にせよ味方にせよ確実な位置が不明で危険性も高い。もう少し待ってはどうだ?」

このシュトックハウゼンの意見が事態を決した。

「いや、一時間後に全艦隊を挙げて出撃する」

ゼークトが断言してから一時間後、大小一万五〇〇〇隻の艦艇からなるイゼルローン駐留艦隊が要塞から出港した。
要塞中央司令室の出入港管制モニターでシュトックハウゼンはそれを眺めているが、率いる者が誰であろうと大小さまざまな艦艇が宇宙空間へ向けて進発する情景はいつ見ても壮観である。

「ふん、痛い目に遭って戻って来るがいい」

シュトックハウゼンは小さく吐き捨てた。冗談であっても、死んでしまえ、とか、負けろ、とは言えない。それが彼なりの節度だった。



「イゼルローン要塞より駐留艦隊出撃。艦艇数一万五〇〇〇」

艦隊副(サブ)オペレーターの桃井恵子大尉から蘭を経由して、その報告を聞いた新一は黙って頷いた。

「艦艇数一万五〇〇〇隻といえば、イゼルローン駐留艦隊の全兵力にあたります。敵の情勢が掴めない時は兵力を小出しにするより、持てる全兵力を投入するのが常道です」
「取り敢えず敵を巣穴から引きずり出す事には成功したな。あとはヤツらを要塞から出来るだけ遠く、そして長時間釣り上げる・・・参謀長。第二、第三分艦隊の準備は?」
「所定の宙域で待機中、と、第二分艦隊司令が駆逐艦を連絡艇代わりに差し向けてきました」
「そうか。駐留艦隊が要塞の索敵圏を出て、二人の部隊に目に入った時が作戦の第一段階開始だ。そこまで気を抜くなよ」

この時、第一三艦隊本隊はイゼルローン近辺の要塞索敵圏外の危険宙域に潜んでいた。平次率いる第二分艦隊及び快斗率いる第三分艦隊はイゼルローン駐留艦隊の針路上に何時でも移動出来るよう展開している。
一歩どころか半歩間違えば、第一三艦隊は各個撃破されるだけであり、時間だけが刻々と経過する間、将兵の中には緊張からか汗を掻き、多量の水分を補給し、一時的に席を離れる者も続出したが司令部の面々は誰も動こうとしなかった。
第一三艦隊本隊将兵を覆っていた緊張感は恵子の、駐留艦隊、我が方に気付かず。間もなく駐留艦隊の索敵圏外から外れます、と言う報告があるまで続いた。
その報告が流されると「ヒューベリオン」艦内は安堵した空気に包まれたが、司令官である新一は表情を全く崩さず、もう少しだ、と、呟いた後、蘭を呼ぶ。

「毛利大尉、コーヒーを頼む」

給湯室へ去る蘭の姿を目で走査しながら、新一は艦隊識別帽を指揮卓へ放り置いて顔をメインスクリーンへ向けた。
その頃、前方に無人偵察衛星を飛ばしてイゼルローン駐留艦隊の動向を探っていた第二、三分艦隊は駐留艦隊が真っ直ぐ一二時方向から接近する無数の光点を探知した。

「提督、イゼルローン駐留艦隊を発見しました。会敵までおよそ六〇分です」
「分かった・・・漸くお出でなすったか。オレたちを一撃で粉砕しようという匂いをプンプンとさせてやがるぜ」

索敵担当オペレーターからの報告を受け取った快斗はそう言って口元を吊り上げる。そこへ平次から通信が入り、通信パネルに精悍な浅黒い顔が現れた。

『快ちゃん、お客ハンがようやっと出て来たで。こっち潰す気が見え見えやな』
「平ちゃん、駐留艦隊全軍を挙げて来て頂いたんだ。相応の芝居をしねえとな」

相手が自分たちより多かろうが少なかろうが関係ない。与えられた兵力の機動戦術を駆使して徹底的に相手を翻弄して味方の勝利に貢献する、と、いうのが平次と快斗の戦術であった。

「和葉、本隊に、敵艦隊一万五〇〇〇接近。我、コレト交戦中。増援ヲ要請スル、と、送信せえ。敵にわざと傍受させるため、繰り返し、何度もや」
「了解」

分艦隊先任参謀・兼・副官の遠山和葉大尉の声に頷いた平次はメインスクリーンに浮かぶ速度を上げて接近しつつある光点を見て、帽子の庇を後ろから前へ移動させて更に命令を下す。

「敵との距離がイエローゾーンに入った時点で六時の方向へ敵の相対速度と同じ速度で後退する・・・各艦の艦長及び機関員は腕の見せ所やで」

一方、第三分艦隊は第二分艦隊と同様の指示を行い、指示を出し終わった快斗はオペレーターの緊迫した声を聞きながら不敵な笑みを浮かべつつ独語した―――さて、イゼルローン駐留艦隊の方々はオレたちの速さについて来られるかな、と。


「閣下。第二分艦隊より、敵艦隊一万五〇〇〇接近。我、コレト交戦中。増援ヲ要請スル、と、通信がありました。なお第三分艦隊も同様の通信文を発信しています」

蘭が平次からもたらされた電文を読むと、新一は、駐留艦隊が囮に食いついたな、と、呟いて口元を綻ばせる。

「これで第一段階完了・・・これより第二段階に入る。毛利大尉、京極大佐に通信回線を」

やがて通信パネルに出てきたのは帝国軍の黒と銀を基調とした軍服を着用し、浅黒い肌を特殊マスクで隠した真の姿だった。

「京極大佐、駐留艦隊は陽動に引っ掛かりました。これより第二段階に入りますが宜しいでしょうか?」
『“薔薇の騎士”連隊、出撃準備完了しております』
「分かりました・・・しかし大佐、帝国人の肌の色が似合いますね」
『勘弁して下さい。部下にからかわれてばかりなので・・・すぐにでも外したいくらいなんですよ』
『どこの誰よ、そんな事を言ってるのは!私が引っ叩いてやるから!!』

司令官と白兵戦部隊指揮官の通信に割り込んできた人物を見て新一は頭を抱えたくなったが、落ち着いて声を出した。

「鈴木大尉、貴官の任務は会話に割り込むじゃないはずだが?」

要塞占領後の艦隊入港オペレートです、と、答える艦隊主任(チーフ)オペレーターの声は多少不貞腐れてはいたが。

「任務を忘れてないだけでもマシだな。ところで京極大佐の特殊メイクは貴官が担当したのか?」
『ま、少しはスターリング大尉に手伝ってもらったけどね。真さんのためなら一肌でも何でも脱ぐわよ』

この発言に通信回線の向こう側から哄笑と口笛が沸き起こり、真がそれを沈静化させて再び新一の前に現れた時、彼は幾分疲れた表情を浮かべていた。

『も、申し訳ありませんでした・・・話を元に戻しますが、連隊の出撃準備は完了。これより本隊より分離して作戦行動へ移行します』
「分かりました。“薔薇の騎士”連隊の作戦成功を祈ります。では要塞内で会いましょう」

通信パネル越しに、艦隊司令官と白兵戦部隊指揮官は短い敬礼を終えると同時に、イゼルローン要塞攻略作戦が発動した。



続く






注:「銀河英雄伝説」は田中芳樹先生、「名探偵コナン」「まじっく快斗」は青山剛昌先生の著作物です。
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