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プロフィール

槇野知宏

Author:槇野知宏
宮崎県児湯郡生まれ。
宮崎県児湯郡在住。

「名探偵コナン」
「まじっく快斗」
「BLACK LAGOON」
「艦隊これくしょん」
「ファイアーエムブレム」シリーズ
「ペルソナ」シリーズ
(特に3と4)
「マクロスF」
「パワプロ」シリーズ
「田中芳樹」
「池波正太郎」
「司馬遼太郎」
「有川浩」
「TUBE」
「山本正之」
「NO-PLAN」
「クラシック」
「プロレス」
「中日ドラゴンズ」
を偏愛する会社員
その実態は、単なるオタク。

年を取る毎に深みにハマってますが、これも人生、問題ない、と開き直ってます(笑)

PASSの掛かっている日記(小説)につきましては「PASSについて」をご覧下さいませ。

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2012/03/22 (Thu) 11:28
銀河探偵伝説(8)

 自由惑星同盟最高評議会は一一名の評議員によって構成されている。
議長、副議長・兼・国務委員長、書記、国防、財政、法務、天然資源、人的資源、経済開発、地域社会開発、情報交通の各委員長がそのメンバーである。
彼らは真珠色の外壁を持った壮麗な塔―――最高評議会ビル―――の一室に集まっていた。窓一つ無い会議室は四方を分厚い防音壁を持った各種設備がドーナツ状に囲んでいる。
室内に入るにも赤外線センサーが充満した通路を通過せねばならず、これが開かれた政治の場なのか、と、財政委員長の阿笠博士(ひろし)は直径七メートルの円卓の一席に座る度にそういう疑問に囚われる。
その日―――標準暦八月六日―――に行われた会議は、議題の一つに軍部から提出された出兵案の可否を決定する、と、いう事が挙げられていた。
二ヶ月前に占領したイゼルローン要塞を橋頭堡として帝国領へ侵入するという作戦案を、軍の青年士官たちが直接、評議会へ提出して来たのだが、過激というより馬鹿げた冗談としか思えない。
 会議が始まると、阿笠は出兵反対の論陣を張る。

「現在の財政状態は危機的というより末期に近い。こちらをご覧下さい」

各評議員の機器端末に幾つかのグラフが表示されているが、戦死将兵遺族年金という文字が眼に突き刺さる。増え続ける軍事費と合わせて年間予算の半分を軽く越えていた。

「ご覧になって分かるように、既に財政は債務超過状態にあります。ハッキリ言って我が同盟には余力がありません」

 実は新一もこの財政難に一役買っていた。
彼の才覚でイゼルローン要塞、さらには五〇万人に上る帝国軍捕虜を得たが、要塞は莫大な維持費、そして捕虜に対する食費等々・・・大変な資金が必要なのである。

「財政健全化の方策は、国債の増刷か増税・・・他の方法があったら誰か教えて頂きたいものですな」
「紙幣の発行高を増やすのはどうかね?」

そう発言したのは副議長であったが、財源の裏付けもなく実施すれば紙幣の額面でなく重量で商品が売買される時期が数年後にやって来て戦争どころではない、と、いう財政委員長の返答に黙ってしまった。
評議員の中には経済学者という肩書きを持った者も何名かいるのだが、彼らは阿笠から視線を浴びると眼を逸らすばかりである。

「皆さんは、超インフレーション時代を無策で乗り切ろうとした無能な政治家たち、と、いう汚名を後世に残したくはありませんでしょう」
「しかし戦争に勝たなければ、未来どころか明日がないんだ」

では戦争そのものを止めるべきある―――阿笠の強い口調に室内が静まり返った。

「我々はイゼルローン要塞を得た事によって、帝国は我が同盟に対する侵略の拠点を失った。有利な条件で講和条約を締結する絶好の機会ではありませんか?」
「しかしこれは絶対君主制に対する正義の戦争だ。彼らとは不倶戴天の関係であり、不経済を理由に戦争を止めるというのも違うのではないか」

数名の反論の中にあった“正義の戦争”“聖戦”という単語を聞いた阿笠は憮然とした表情をして席に着く。
莫大な出血、国家の破産、国民の窮乏・・・正義のためだけに次々と生贄を求めて飽く事を知らないのだ。
諸君、暫く休憩を挟もう、と、議長であるロイヤル・サンフォードが疲れたような声で提案し、午前の会議は終わった。
 昼食の後に会議は再開されたが、今度は人的資源委員長であるシャロン・ヴィンヤードが出兵反対を唱えた。
政界に入る前は女優として映画や舞台等で名を馳せていたので、彼女の唇から紡ぎ出される声は気品を兼ね備えた張りがある。

「人的資源委員長としては、経済や流通等の中核を担うべき人材が軍事方面に偏っている事と、教育や職業訓練に対する投資が削減傾向にあるという二点に対して不安を禁じ得ません。教育や職業訓練に対する投資が削減される一方というのも困ります」

一旦、言葉を切ってからシャロンは、ここ半年間に発生した職業事故が前年度の同時期と比べて三割増である事を指摘した。

「これは民間や公立の学校における職業訓練期間の大幅な短縮と人員不足による過重労働が大きな原因であると考えます。そこで提案ですが、現在軍に徴用されている技術者、航宙士、通信関係者のうちから四〇〇万人を民間に復帰させて頂きたい」

これは最低限の数字である、と告げた後、同席する評議員たちを見渡していたシャロンの視線がトリューニヒト国防委員長の前で停止した。

「人的資源委員長の意見はもっともだが、それは無理と言うものだ。それだけの人員が外されたら軍組織が瓦解してしまう」
「そう仰いますが、このままでは軍組織より早く社会経済そのものが瓦解します。国防委員長は現在、首都の生活物資流通制御センターで勤務しているオペレーターの平均年齢をご存じかしら?」

否、という回答が返って来たので、四二歳、と答えると、異常な数字とは思えない、と言うのがトリューニヒトの意見であったし、阿笠以外の評議員も頷いた。
僅かに眼を細めたシャロンは勢いよく机を叩くと、現役時代を彷彿させる声量を室内に響かせる。

「これは数字による錯覚です!人数の八割までが二〇歳未満と六五歳以上で占められている。平均すれば確かに四二歳ですが現実には三、四〇代の中堅技術者が殆どいません。社会機構全体に渡ってソフトウェアの弱体化が徐々に進行しつつある。これがどれほど恐ろしい事か、賢明な評議員各位にはお分かり頂けると思いますが?」

シャロンが口を閉じて再び一同を見渡したが、彼女の目をまともに直視したのは阿笠だけであり、他の評議員たちは目を逸らしたり、机を見たり、天井を見上げたりと視線を合わせようともしない。阿笠がシャロンに代わって発言をする。

「つまりは民力休養の時期という事ですな。イゼルローン要塞を手中にした事で、帝国は我が同盟に侵攻する手立てを失った。逆に我が方は相手の侵入を長期間に渡って阻止する事が出来る、と、すれば、何もこちらから攻撃をする必要性はありますまい」

 負担に耐えている国民に犠牲を強いるのは民主主義の原則にも外れる、と、阿笠が熱心に説いていると反発の声が上がる。
評議員の中でシャロンと同じ女性評議員であり、つい一週間前に選出されたばかりの情報交通委員長を務めるコーネリア・ウィンザーからであった。
彼女は、大義を理解しようとしない市民に迎合する必要はない。大事業を成すには犠牲もやむを得ない、と、説き、阿笠が彼女の公式論を窘めるようとしたが効果は全くなかった。

「いかなる犠牲を払おうとも、例え全市民が死に至っても、成すべき事があります」
「ウィンザー夫人。全市民が死に至ったら、民主主義自体が消滅すると思うがね」

溜息を吐いた阿笠を無視してウィンザー夫人は列席者に向かって、先程のシャロンに対抗するかのように良く通る声で意見を述べる―――もっともシャロンに言わせると、聞くに堪えられない品性の欠片も感じない声、と、手厳しい。

「私たちには帝国を打倒し、その圧政と脅威から全人類を救うという崇高な義務があります。安っぽいヒューマニズムに陶酔して大義を忘れて、大道を歩む態度と言えるでしょうか?」

 彼女は四〇代前半の優雅で知的な美しさを持った魅力的な女性とされているが、同性の評議員であるシャロンを一方的にライヴァル視かつ見下している感があった。それは彼女の、落ち目になった女優風情に政治が分かるワケがない、と、いう発言に現れている。
当のシャロンはと言うと、ウィンザー夫人について、知的という仮面を被り、安っぽいヒロイズムに酔っている三流女優と同レヴェル、と、評して眼中にも入れていない。
ウィンザー夫人の声を聞いていると、シャロンが評した通りだ、と、阿笠は感じて危機感を抱いた。彼が再び反論しようとした時、午前中に一言しか発言しなかった議長が口を開いた。

「ここに資料があるが、みんな端末機の画面を見てくれんかね?」

評議員たち―――あのトリューニヒトでさえ―――は、この人、いたのか、と、いう表情を浮かべたが、議長の言われた通りに端末機へ目をやると、画面には円グラフが表示されている。

「このグラフは我が評議会に対する全市民の支持率を表しているが、良いと言えるレヴェルじゃないな」

支持率三一.九パーセントに対して、不支持率は倍に近い六二.四パーセント。両方の数値は列席者の予想と大きく違ってなかったが、それでも不支持率の高さを見ると落胆の溜息が洩れた。
ウィンザー夫人の前任者が贈収賄事件で辞職、逮捕されてから何日も経っていなかったし、阿笠やシャロンの指摘通り、社会経済上の停滞が不支持率の高さに繋がっている、と、言えた。その一同の反応を見ながら議長は意図的かどうか判別し難い低い声で言葉を続ける。

「このままでは年明け早々の総選挙で勝つ事は無理だ。和平派と強硬派に挟まれて過半数を割るのが目に見えとる」

一旦、言葉を切って端末機を操作していた議長が顔を上げて発した声は、聞く者の注意を引くには効果大であった。

「端末機をもう一度見て欲しい。これは一〇〇日以内に帝国に対して軍事上の大勝利を収めた時の支持率だ。コンピュータに計測させたところ、支持率は一五パーセントもアップする事がほぼ確実なのだ」

今の数値は最低である、と、言う議長の話に軽いざわめきが生じる。ウィンザー夫人が軍部からの提案を投票にかける事を提案した時、僅かな間をおいて数人が賛同の声を上げた。
阿笠とシャロンを除く評議員は、権力の維持と選挙での敗北による辞任とを秤にかけた、そのためだけの沈黙だったのだ。

「評議員各位は冷静になって考えて頂こう。選挙のためだけに出兵するなどと聞いた事がないし、我々にそのような権利は与えられてはいない」
「阿笠財政委員長。それは綺麗事ですわ」

ウィンザー夫人の声には冷笑と勝ち誇ったかのような響きがあった。
それは阿笠だけでなく彼女がライヴァル視している人的資源委員長にも向けられていたが、その人的資源委員長は同性の情報交通委員長に対して侮蔑を込めた視線と嘲笑を浮かべて彼女を見ている。一瞬だけウィンザー夫人の顔に赤みが差したが、シャロンから顔を背けて議長へと向けた。

『一流気取りで自己陶酔に浸るだけの三流女優・・・ホント、つまらない女』

そう心の中で侮蔑の言葉を浴びせたシャロンは、椅子に座って憮然としている阿笠に小声で話しかけた。

「ミスター・阿笠、短気を起こす事だけは止して下さい」
「ミス・ヴィンヤード、ワシはそういう事はせんよ」

そう言って二人は丸い投票用ボタンに指を伸ばした―――賛成六、反対三、棄権二。投票の結果、有効投票数の三分の二以上が賛成票によって占められ、ここに帝国領侵攻が決定した。
だが票決の結果より、評議員を驚かせたのは三票の反対票の一票をトリューニヒト国防委員長が投じたからである。
他の二票は阿笠とシャロンである事は賛成派の予想範囲内であったが、トリューニヒトは対帝国強硬主戦派として自他共に認められていた存在だったからだ。当然のように疑問の声が上がったが、彼はこう返答した。

「私は愛国者だが、常に主戦論に立つ事を意味しているのではない。私が出兵に反対であった事を議事録に銘記するだけでなく評議員各位も覚えておいて頂こう」



 最高評議会で帝国領侵攻が可決されて二日後、新一と蘭は久しぶりにハイネセン市内を散策していた。
公的には同盟軍宇宙艦隊に所属する一〇個艦隊の中の一つを指揮する司令官と副官であるが、私的には幼馴染みという関係である。
映画を見て、オープンテラスのカフェで昼食を摂り、夕食までの時間をショッピング等で楽しむという計画であったが、街中で腕を組んで歩いていた参謀長と副参謀長に偶然出会ってからは、計画を修正して夕食までの時間を四人で過ごす羽目になった。
探に案内されて来たのは裏通りにある小さな喫茶店であった。彼に言わせると、ここの紅茶は絶品、と、いう事らしいが、コーヒー党の新一からすればどうでも良い話である。
店内に入ると、眼鏡をかけた店の主らしい六〇代後半の女性がカウンターの向こう側でティーカップを洗っていたが、探と紅子の姿を見ると表情を和らげて頭を下げた。
探が何事かを話すと、彼女は頷いて奥の扉へと案内する。参謀長と副参謀長は慣れた感じで扉の奥へと入って行くが、新一が女性を見ると、入っても大丈夫、と、いう意味を込めて頷いたので、彼らは探たちの後を追おうとしたところで彼女に呼び止められた。
何事かと思ったら、飲み物は何が宜しいでしょうか、と、尋ねられたため、コーヒーとミルクティー、と、言うと女性は再び頷く。扉の奥は短い一本の廊下になっており奥に扉が見える。その扉を開けると、部屋には探と紅子が椅子に座って二人を待っていた。
新一は目だけを動かして室内を観察した―――五、六人がやっと入れる程度の広さで、部屋の中央に木製の丸テーブルと椅子が四つ、隅にはノートパソコンが置かれた事務用デスク、その近くに空気清浄機らしき機械が部屋の隅に置かれ、窓はカーテンで閉められていた。

「白馬、この部屋は?」
「名目上は倉庫ですが、僕と紅子さんがプライヴェートで使用している情報収集用の個室ですよ」

そんな事は官舎でも出来るだろう、と、言いかけた新一は探の意図を読み、黙って空いた椅子に座ると、蘭は一言断ってから幼馴染みと同じ動作を行う。
そこへタイミング良くドアがノックされ、探の声で店主の女性が飲み物と焼菓子が載ったトレイを持って入室し、トレイに載ったものをテーブルの中心に置いてから一礼して退室する。

「僕と紅子さんは上層部の受けが悪いので、官舎は盗聴されている可能性が高いですから」
「官舎の調査に来る業者に扮した諜報部員が仕掛ける可能性もあるって事か?」
「杞憂かも知れませんが、用心にこした事はありませんからね」

この部屋は統合作戦本部並みの防音壁にしています、と、言う探の言葉に新一が、そんな防音態勢にしている部屋に自分たちを呼んだのは何か重大事項があったのか、と、尋ねると“絶対零度のカミソリ”は小さく頷く。
そして彼の隣に座る“紅き魔女”に視線を転じる。その意味を悟った紅子は新一の顔を見て、二日前に行われた最高評議会において帝国領侵攻が可決された事を告げた。

蘭が大きく目を見開き、新一は天井を見上げて息を吐き出した。軍部や政府の主戦派が帝国領への侵攻を企図するのではないか、と、いう考えは彼の頭の中にあった。
しかしイゼルローン要塞が同盟の所有物となった時点で政府や軍は疲弊した国力と戦力を立て直すために要塞を中心とした防御戦に移行するだろう、と、いう考えがあったのも事実であり、新一は己の考えの甘さと若さを痛感した。

「しかし服部本部長がこんな案を承認するワケがねえ・・・まさかトリューニヒトが直接ねじ込んだのか?」
「いいえ。軍の若手高級士官たちが、作戦案を評議会へ直接提出したそうですわ」
「政府の高官と軍の若手高級士官とやらは、同盟全体の国力を弁(わきま)えてねえ連中ばかりだな」
「自分たちの栄達と権力の維持という俗な事しか考えない無能な輩ですからね」

そういう情報が良く分かったな、と、新一が感心すると、探は事も無げに言ったものである。
ああいう輩は自分の想像出来る範囲ではガードが固いが、スナックとかバーなどで女性たちに囲まれたらボロを出す―――特にアルコール類を大量に摂取している時は。そして、そういう場所で働いている女性ほど喋りたがるものである、と。

「それに僕というか父の知り合いに記者歴四〇年という政治家にも一目置かれている政治記者がいて、彼からも情報を仕入れていますので」

政府御用達の政治記者は政治家本人やその関係者、記者歴が長いヴェテランとなれば独自のネットワークを駆使して情報を仕入れるが、政治家や関係者も顔見知りの記者という事で口も軽くなる、と、いう側面もあるそうだ。
なるほど、と、呟いた新一に紅子が封筒を差し出す。その中には文字で埋められた数枚のレポート用紙と写真が付いていた。

「これは帝国領侵攻に賛成した議員と評議会に侵攻案を直接提案した士官の名簿及び行動記録と写真です」
「評議員は対帝国強硬主義者と政治権力に対する執着心が強い連中ばかり・・・おい、トリューニヒトの名前が入ってねえぞ?」
「かの御仁はお二人も御存じのように自他共に認める対帝国強硬主戦派ですが、今回の作戦については反対票を投じています。この行動について評議会や記者の間でも首を傾げる者もいたようですわ」

紅子の声に頷いた新一がもう一つのレポートに目を通すと、一番上のレポートに留められていた陰気かつ神経質そうな若い准将の顔写真を見て探の方を見る。

「コイツはアンドリュー・フォーク―――ヤツなら、やりかねえな」
「同期生の中で自己顕示力が強いだけの最低最悪な汚物。ペーパーだけはそれなりに良いんですが、戦略戦略シミュレーションでは落第生。あのような小人が僕と同じ階級で宇宙艦隊司令部の作戦参謀という要職にいる自体が奇跡ですね」
「所詮は上官に媚び諂(へつら)って今の階級を手に入れた人間ですから」

二人が言葉という刃物で同期生をバッサリと切り捨てるのを苦笑しながら聞いていた新一は二枚目、三枚目と目を通していく。

「何人か見知った顔がいるな。白馬たちもそうだろ?」
「ええ。統合作戦本部や宇宙艦隊司令部、ハイネセンの軍事施設などで勤務している若手士官や幕僚です。彼らに共通する事は・・・」

軍内で反戦論を唱える政治家の弱腰を非難している口が達者なだけの腑抜け連中だ、と、新一が探の後に言おうとした事を言うと彼は頷く。

「彼らはフォーク准将を中心として自分たちが作成した作戦案を評議会に直接売り込んだ、と、いう事です」
「本部長に提出したら間違いなく却下される代物ですが、評議会で可決したものなら本部長も拒否は出来ません」
「でも急ぎ過ぎるという感じを受けるわ。何故、評議会が無謀と言える作戦に乗ったのかしら?」

それまで新一たちの会話を黙って聞いていた蘭が口を挟み、紅子がその疑問に答える。

「毛利さんは来年に評議会の総選挙がある事を御存じかしら?」
「ええ、知ってるけど・・・まさか選挙のためだけに賛成したんじゃ!?」
「その通りよ。現政権は不支持率が支持率のほぼ二倍。そこで評議会議長が、コンピュータに試算させた結果は帝国軍との戦闘に勝利すれば支持率は大幅に回復する、と、言い出して、それに乗った権力志向の持ち主が賛成した・・・これが真相」
「呆れた話ね。選挙のためだけに軍隊を動かすなんて。それもコンピュータが試算したって、コンピュータも完璧じゃないのに」

 女性二人の会話を聞いていた新一は黙ってテーブルに置かれたコーヒーに口をつけたが、その苦さが何時もより倍以上に感じる。
軍部の跳ね上がり共の作戦案提出案もだが、蘭の言うように選挙のためだけに帝国軍と戦わされる軍人や軍属はたまったものではない。
そんな事を言い出した議長、その提案に何も考えず賛成した政治家―――特に“影が薄い”だの“存在感がない”だの“国防委員長の引き立て役”などと、失笑と嘲笑を買っている議長は戦乱だけでなく平穏な時代においても無能な存在だ、と、新一は思った。

「帝国領侵攻となれば数個艦隊が必要になる。現在、宇宙艦隊が保有するのは一〇個艦隊・・・最低でも五個、最大でも八個艦隊を投入する可能性があるな」
「首都防衛が任務の第一艦隊、再錬成訓練中の第一一艦隊は省く確率は高い。しかし大艦隊を運用するとなると補給の問題が出て来ますね」

そこは志保を宇宙艦隊司令部の後方主任幕僚にする、と、いう新一の言葉に探も同意を示した。

「彼女以上に補給運営を任せられる人材はいませんからね。話は変わりますが、工藤くんが帝国軍の指揮官ならどう対応します?」
「堂々と進軍して来る敵を正面から叩く―――コイツは勇壮と思えるが愚の骨頂だ。オレなら領土深く引きずり込んで伸びきった補給線を断つ」

もし帝国軍の指揮官がローエングラム伯なら間違いなく後者の戦法を採用し、逆に同盟の腐敗した政治家と同様の門閥貴族出身の指揮官なら前者を採用する―――そう新一は断言した。

「僕も工藤くんの意見に賛成ですが、問題はそれを見抜ける参謀が宇宙艦隊司令部内にいるかどうかが問題ですね」
「一つ言えるのはフォークが見抜けるワケがねえって事だ。アイツは、自分の思い通りに戦闘は進む、と、考えてるヤツだからな」
「宇宙艦隊司令部には作戦主任参謀コーネフ少将がいますが、宇宙艦隊司令長官ロボス元帥はコーネフ少将や総参謀長グリーンヒル大将より、ただの作戦参謀に過ぎないフォーク准将を重用している、と、いう話は有名ですからね」

口の悪い人間から“司令長官の腰巾着”だの“司令長官の愛人”と呼ばれている事を探が披露すると、新一は苦笑しつつ腕時計に目をやると椅子から立ち上がる。
蘭さんとご夕食ですか、と、探から聞かれたので新一は頷きながら、そっちも同じだろ、と、振り返した。

「父から、たまには実家に顔を出せ、と、言われましたのでね」
「実家に女性同伴って・・・それじゃ、僕たちは付き合ってます、と、言ってるようなもんじゃねえか?」

その言葉に、それは事実ですから、と、平然として言ってのける探に新一は、そういう姿勢をアイツ等に見せてやりたいな、と、呟く。
アイツ等、と、いう単語が第二、第三分艦隊司令である事をこの場にいた人間には分かった。
服部くんと黒羽くんだけでなく、遠山さんも中森さんも素直じゃないですから仕方ありませんわ、と、言う紅子の発言に全員が賛同した。

「デート中に申し訳ありませんでした。この埋め合わせはいつか必ずしますよ」
「期待してるぜ、参謀長どの」

そう言って部屋から退出しようとした時、新一は一緒に部屋から出た探に声を掛けた。

「トリューニヒトの件だが、オレが思うに同盟の国力等から判断して反対に投票したんじゃないか、と、思ってる」
「確かに。彼には軍と国内事情に詳しい腰巾着が六、七人いますから、そのルートから情報を仕入れた可能性もありますね」
「ただ、アイツの周辺は相当ガードが固いはずだから無理だけはするなよ?」
「分かりました。分かる範囲内で国防委員長周辺の動向を調べておきます」
「コイツは近いうちに司令部の面々を集めて協議する必要があるな」

確かに他の方々にも知らせておいた方が良いですわね、と、紅子が言い、四人は店主の見送りを受けながら店を後にした。
路地の細い道を抜けて大通りに出た時、あの女性は何者だ、と、新一は探に聞くと、彼女は我が家に使えていた僕の婆やです、と、言った。
彼の父親は宇宙艦隊司令長官や統合作戦本部長を歴任した軍人であるが、その実家は艦隊主任(チーフ)オペレーターを務める園子の実家である鈴木財閥と比肩するほどの家柄だ。

「帰るんなら事故に気をつけろよ?」
「それはお互い様でしょう」

そうだな、と、言って新一たちは探たちと別れた。ふと彼らの方を見ると、腕を組んだ状態で女性が男性の肩に頭を乗せている姿。
探の薄茶色の髪以上に紅子の髪が太陽の光で鮮やかな紅色になっているように見えた。街を歩く人々がそのカップルを羨望に満ちた目で見ているのだが、当の二人は意に介そうとせず自然に歩いている。
アイツ等、絵になるな、と、呟いた新一の手を蘭が握った。幼馴染みの顔を見た新一に、これが精一杯なんだから、と、彼の耳に聞き取れるほどの声に新一は、そのうち堂々と腕を組んで歩きてえな、と、言って蘭を赤面させた。



 レストラン「アルセーヌ」はハイネセン市内の高級ホテルで、長年に渡って料理の腕を磨いたシェフが独立を許されて建てた店である。
店がオープンして既に三〇年が経過し、先代オーナーシェフも息子に店を任せている。先代から二代目へとオーナーシェフは代わったが、料理は先代から受け継いだ味を守り、かつ安価という事でハイネセン市民の人気は高い。
新一の父である優作は「アルセーヌ」開店以来の常連であり、幼い頃から両親と通い続けている新一も店の常連である。二人が店内に入ると顔見知りのウェイターがすっ飛んで来た。

「いらっしゃいませ・・・お二人にこう仰るのも久しぶりですな」
「申し訳ありません。仕事が多忙だったもので足が遠のいてしまいました」

久しぶりの来店を喜ぶウェイターだったが、本来の仕事を思い出して新一たちを予約席へと案内した。彼の後ろについて歩く新一と蘭の目に食事をしている阿笠志保少将の姿が見えた。
志保も二人に気付いたようで、一人で食事か、と、言う新一の問いに、両親と久しぶりの夕食よ、と、言うと彼女の後ろには阿笠と彼の妻であるフサエが立っていた。

「新一、蘭くん。久しぶりじゃな」
「お二人にお会いするのは何年ぶりかしらね」
「そうですね。博士(はかせ)夫妻に会うのは三年ぶりですね」
「博士(はかせ)もフサエ小母さまもお元気そうで何よりです」

 阿笠の名前は博士(ひろし)であるが、最高評議会に立候補するまでは発明家として名を馳せていたので、彼に幼少の頃から世話になっている新一、蘭などは博士(はかせ)と呼んでいる。
本人は評議会議員に立候補する気は毛頭無かったのだが、周辺住民のトラブル仲裁能力を認められ、推されて立候補させられた経歴を持つ。彼女の妻であるフサエは、女性に人気の「フサエブランド」という服飾デザインの社長であり夫とは幼馴染みであった。
一方の志保は阿笠夫妻の実子ではなく養女である。これは幼少の頃、大病を患って入院していた志保を見舞った帰りに両親と姉が交通事故により他界し、彼女の両親の友人であった阿笠夫妻が志保を引き取ったのである。
新一は自分たちを案内してくれたウェイターに、予約を反故にする事を詫び、料理はそのままで阿笠親子との相席を頼んだ。彼が常連であった事、そして心からの謝罪にウェイターも、承知致しました、と、言ってくれた。
自分たち用に用意されたテーブルを見ると、旧様式に統一された手編みのクロスが掛かっているテーブルの上にキャンドルが置かれてある。ハイネセンにいる間、外食する時は「アルセーヌ」で決まりだな、と、思い、新一は椅子に座った。
阿笠が飲むパナシェ、新一用のミント・ジュレップ、女性陣のための三杯のフルーツジュースで再会を祝しての乾杯。そして予め予約しておいた料理が運ばれてくる。いくつかの皿がテーブルに載った時、阿笠が口を開いた。

「新一。志保から聞いたのじゃが、今回の件で中将に昇進したそうじゃないか」
「信頼出来る部下・・・と言うか、先輩や同期のお陰ですよ」
「新一くんは肩肘張って周囲を威圧しながら歩く昨今の軍人とは思えないのよね」
「フサエさん、褒めて頂いて有り難うございます」

そう言って厚切りベーコンの載ったビーフステーキにナイフを入れた。暫く食事をしながら談笑していたが、店内で見た時からの疑問を志保に聞く―――何で、休みの日に軍服を着てるんだ、と。

「事務の引き継ぎ。異動が決まったのよ」
「宇宙艦隊司令部後方主任参謀か?」

新一の声は小さく周囲には聞こえない位の大きさであったが、志保と阿笠夫妻を驚かせるには十分過ぎた。
良く分かったわね、と、志保は言ったが、頼りになる切れ者の情報屋から帝国領侵攻がある事を聞いた、と、言う新一の言葉に、納得した表情で頷く。その情報屋が誰であるかを志保は悟ったからである。

「あの二人は統合作戦本部にいる頃から情報収集能力に長けていたけど、工藤くんの下に付けたのは間違いだったかしら?」
「いや、オレは重宝してるけどな。博士、チョット聞きたい事があるんですが・・・」

新一の意図を悟った阿笠が隣に座るフサエの方を見ると、彼女も頷いて席から立ち、終わったら呼んで下さいね、と、言ってテーブルから離れた。気を遣ってくれたフサエの後ろ姿に頭を下げた新一が阿笠に向き直る。
評議会の流れは大体掴んでますが、と、前置きをして新一が小声で話し出すと、殆どと言うか全て彼の言った通りだったので阿笠はハンカチで顔の汗を拭う。

「この暴挙を止められなかったワシも責任はあるからな」
「博士に責任はありませんよ。博士とヴィンヤード女史が反対票を投じたのは分かってます。あるのは選挙目的で賛成票に投票した議員連中ですが、一つ気になる事が・・・」

トリューニヒト国防委員長の件かね、と、阿笠が言うと新一は頷いた。

「その事に関してはワシもヴィンヤード女史だけでなく、賛成票に投じた評議員たちも不思議に思ったからのう」
「恐らくヤツはブレーンたちにシミュレートさせて、この作戦が失敗すると踏んだんじゃないかと思います」
「じゃが国防委員長のブレーンと言えば“反帝国”を唱える有名なタカ派の評論家や学者ばかりだぞ?」

テレビや雑誌等では“愛国心”だの“帝国打倒”などと叫んでいるが、所詮は二枚舌の連中だから裏ではトリューニヒトのために情報収集に勤しんでいる、と、新一は自分の考えを告げた。

「それは仮説じゃろう」
「今は仮説に過ぎませんが可能性が高い・・・ですが真実は一つしかありません」

そう新一が答え、ミント・ジュレップで軽く喉を潤した時だった。店内の隅から男性の怒声と若い女性の声、若い男性の声が聞こえたので、新一、蘭、そして志保が立ち上がって声のする方へ歩を進める。
そこでは軍服を着た中年男性三名に同じ軍服を着た若い男性二名と女性一名に喰ってかかっている光景だった。彼らの側には店のウェイトレスが銀製のトレイを胸に抱いたまま、今にも泣きそうな表情で立ち尽くしている。
新一が先程のウェイターに話を聞いたら、ウェイトレスが誤って中年男性の軍服に水を溢してしまい、怒った中年男性たちが、今のはわざとだ、店長を呼んで来い、料理代は払わない、と、理不尽な事を言っているのだ。
そこに女性を交えた若い士官―――というより少年兵に近い――――の三人組が、謝っているのに無理難題を突き付ける事が高級士官のやる事か、ウェイトレスの足を引っかけて転倒させたのを見た、と、彼らの非をならしている。
あの若い連中が正しいな、と、新一が評したところへ中年男性が侮蔑と怒りが混ざった声で若い方を罵った。

「貴様等、この階級章が見えないのか?たかが少尉の分際で大佐に文句を言うとは何事だ!」
「そうだぞ?我々はトリューニヒト国防委員長閣下直轄の士官だ。その気になったら貴様等の首を飛ばす事なぞ朝飯前だ!!」

こう恫喝すれば若い少尉連中が謝罪すると思ったらしいが、その予想は見事に覆された。

「悪い事したんだから謝るのは当然じゃねーか?」
「そうよ。階級は関係ないじゃない」
「あなた方みたいな人間を、虎の威を借る狐、と、言うんですよ」

その若い士官たちの言動に新一は拍手を送りそうになったが、二組の軍人たちの中で縦より横のサイズが大きい大佐の階級章を付けた士官が、虎の威を借る狐、と、言い放った小柄な士官を横に跳ね飛ばしたのである。
跳ね飛ばされた方は食事を楽しんでいたカップルのテーブルに頭から突っ込み、男性の罵声が中年軍人に向けられたが、ひと睨みされて動かなくなってしまった。
跳ね飛ばされた側の友人であると思われる太めの士官が向かって行くより早く、新一が肩を叩いて振り向いた中年大佐の顔に飲みかけのミント・ジュレップを引っかけた。当然、彼らはいきり立ったが、新一が皮肉っぽい口調で事実を突き付ける。

「オメー等、国防委員長の直轄の士官、と、言ったよな?民間人に因縁つけて、それを止めようとした士官に暴力を振るった事実はオレだけじゃなく、店にいる客が全員見てるんだよ。何なら国防委員長閣下へ事実を話してやっても良いんだぜ?」

オメー等の愚行を目撃した市民と軍人の言い分、敬愛する国防委員長はどちらを信用するかな、と、新一は言ったのだが、彼が私服という事もあって中年連中は新一の発言を無視した。
逆に、クリーニング代は請求する、だの、我々軍人が貴様等のような民間人を帝国から守ってるんだ、などと、好き勝手な事を言い放つところへ冷然とした声が耳に入る。

「そこまでにしておいた方が良いわよ?上官反抗の罪に問われるのが嫌ならね」

それは軍服の襟元に少将の階級章を光らせた志保が発した言葉だった。彼女の階級章を見た彼らの口と動きが止まる。軍内において女性の少将と言えば統合作戦本部長次席副官しかいない事を理解したからである。
ついでに言っておくけど、と、志保は前置きして新一の身分を明かすと、蘭と志保以外の軍人は完全に身体を硬くしてしまった。
階級にものを言わせる行為が好きではない新一であったが、こういう時には有効な手段だな、と、思い、さっきミント・ジュレップを引っかけた士官の肩を叩き、有無を言わせぬ低い声で、払うものを払って店から出て行け、と、言うと三人は迷惑料を含めた代金を払って新一の方を見ずに走り去って行った。
アイツ等は軍人というより立体テレビ(ソリヴィジョン)に登場するならず者と一緒だな、と、新一が吐き捨てるように言うと、蘭と志保が頷く。
そばかすがある少尉には志保が付き従ってハンカチで口元の血を拭き取ったり、氷で腫れた箇所を冷やしている。その光景を見た同盟軍最年少の艦隊司令官は残りの二人の少尉どのを自分たちが使用しているテーブルへと案内すると、阿笠は全てを見ていたらしく溜め息を吐き出しながら言ったものである。

「最近、ああいう手合いの軍人が増えて困ったものだ」
「それならイゼルローンを占拠した時からだとすれば、オレにも責任がありますね」
「いや、議会で帝国領侵攻作戦が可決されて以降じゃよ」

そこへフサエがタイミング良く現れて、話は終わったかしら、と、阿笠と新一に声を掛ける。もう済みました、と、新一は言い、家族の団欒を壊した事を謝罪した。

「博士さんと二人っきりで帰るのも久しぶりだから、気にしなくても良いわよ」

そう言って阿笠夫妻が店から姿を消すと、まだ雲の上の存在である上官を前にして身体を硬くしている二人に新一は椅子に座るよう促すと、何か食べたのか、と、尋ねる。
店に入ってすぐだったので何も注文はしていないとの事なので、新一は食べたい物を注文するようメニュー表を渡した。
そこへ志保とそばかす少尉がやって来って席についたところを見計らったところで、そばかす少尉が自己紹介をしようとするのを新一が手を挙げてそれを制する。

「知ってるよ。元第二艦隊所属第五九四独立空戦隊の小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美准尉・・・いやアスターテの功績で少尉だったな。オレが今度からオメー等の上司になる工藤新一だ」

そう新一が自己紹介をすると、空戦隊の三人は驚愕する。新一が第二艦隊副参謀長である事は知っていたが、彼らからすれば雲の上の存在である新一が自分たちの名前を知っていたのだから当然であろう。

「ハイネセンに帰還するまで全艦隊の戦闘詳報や空戦記録に目を通したからな。旗艦クラス戦艦一隻を協同撃沈、三人合計で敵艦載機(ワルキューレ)二五機を撃墜破」

その前に腹ごしらえだな、と、新一が言うと三人がメニュー表を見ながらあれこれと注文している光景を見ながら、支払いは現金じゃなくカードだと同盟軍最年少の艦隊司令官は内心で苦笑した。



 食事が終わり、予想通りカード支払いを済ませた一同が「アルセーヌ」を出ると、志保が四日後に帝国領侵攻の作戦会議がある、と、いう事を新一に告げる。
新一が黙って頷き、志保は店の前に止めてあった無人タクシーに乗り込もうとした時、光彦が彼女に声を掛けた。

「あ、阿笠少将・・・あの、これどうしたら良いでしょうか?」

そう言って光彦が差し出したのは、志保が彼を介抱した際に使用した白いハンカチで血が付着しており、例えクリーニングに出したところで血に染まった部分は完全には取れない。
しかも彼女は愛用しているフサエブランドのハンカチを惜しげもなく使用していた。別に気を遣う必要は無いわよ、と、志保は言おうとしたが、数秒間考え込んで光彦に顔を向ける。

「それ、お守り代わりにあげるわ」
「それでは僕・・・いえ、小官の気が済みません」

一八歳の少尉と二六歳の少将の言葉のやり取りを見ていた二五歳の中将は口元に笑みを浮かべて仲裁に入った。

「少将と少尉がハンカチ一枚で言い合いするんじゃねーよ。志保も円谷少尉の誠意は受け取っておけよな」
「で、工藤くんの意見はどうなの?」
「こういうのはオレにじゃなく同性の蘭に聞くのが筋ってもんだろ?」

 そう言って新一は幼馴染みの大尉の方へ目を向けると、光彦は志保のハンカチを貰うと同時に彼女に似たようなハンカチを渡す、と、いうのが蘭の意見である。
それを聞いた志保は小さく息を吐いて、その案に受け入れたが、同じ物を買う必要はない、と、念を押していたのは言うまでもない。
話がまとまったところで志保は無人タクシー、新一と蘭は徒歩で帰途に着いたのだが、光彦は志保が乗った無人タクシーが走り去った方を見つめていた。
歩きながらその方へ僅かに視線を動かした新一を見て蘭が首を傾げる。

「どうしたの、新一?」
「円谷少尉が“呼吸する精密コンピュータ”に惚れちまったって事だよ。まあ志保の印象に残ったのは確かだろうな。あとは二人の問題であって時間が解決してくれるさ」

そう言って新一は蘭の手を軽く握り締めた。



続く






注:「銀河英雄伝説」は田中芳樹先生、「名探偵コナン」「まじっく快斗」は青山剛昌先生の著作物です。
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