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プロフィール

槇野知宏

Author:槇野知宏
宮崎県児湯郡生まれ。
宮崎県児湯郡在住。

「名探偵コナン」
「まじっく快斗」
「BLACK LAGOON」
「艦隊これくしょん」
「ファイアーエムブレム」シリーズ
「ペルソナ」シリーズ
(特に3と4)
「マクロスF」
「パワプロ」シリーズ
「田中芳樹」
「池波正太郎」
「司馬遼太郎」
「有川浩」
「TUBE」
「山本正之」
「NO-PLAN」
「クラシック」
「プロレス」
「中日ドラゴンズ」
を偏愛する会社員
その実態は、単なるオタク。

年を取る毎に深みにハマってますが、これも人生、問題ない、と開き直ってます(笑)

PASSの掛かっている日記(小説)につきましては「PASSについて」をご覧下さいませ。

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2012/05/11 (Fri) 18:56
銀河探偵伝説(13)

 捕虜交換は両国政府の間で行われるものではない。両国ともに、自分たちを人類社会における唯一の正統政権と主張し、互いの存在を公認していないのである。したがって外交関係も成立しようがない。
これが個人レヴェルの話であれば、人々はその頑なさ、愚かさを笑うであろうが、それが国家規模となると、権威とか尊厳の名のもとに人々はあらゆる悪徳を容認してしまうのだ。
イゼルローン要塞で捕虜交換式が行われたのは宇宙暦七九七年二月一九日の事である。帝国軍の船団は既にイゼルローン回廊に入っており、その行動は一時間ごとに新一の元に届けられた。
九時四五分、要塞内に戦艦「バルバロッサ」が真紅の艦体を現す。この真紅の戦艦が率いる艦隊は、昨年のアムリッツァ星域会戦において同盟軍の戦線を一挙に瓦解させる戦果を挙げただけでなく、新一率いる第一三艦隊を、あと数歩で敗北、と、いう状況まで追い込んだ実績があった。

「平ちゃん、帝国のキヒルアイス上級大将ってどんなヤツだと思う?」
「快ちゃん、そんなんオレが分かるワケあらへんやろ?ま、分かっとるんが、キウイアイス上級大将って兄ちゃんがオレらより若いっちゅう話や」
「なーるほど。同盟だけじゃなく帝国も世代交代の波が押し寄せてるってか」

岸壁に並んで帝国軍の代表を待っている司令部の高級士官二名が雑談を始め、参謀長がわざとらしく咳払いをして雑談を中止させると、司令官がその方向を睨みつけた。

「オメー等なぁ・・・」

何かを言いたそうにしていた新一だったが、港湾管理施設から、まもなく「バルバロッサ」が接舷する、と、いうアナウンスが流れたため正面を向く。

「全く君たちは資料を読んでいるんですか?帝国軍の代表はローエングラム候の腹心と言われる御仁です。ひとつ付け加えるなら、名前はキルヒアイス上級大将・・・本人の前で間違えないで下さいね」
「んな事、オメーから言われなくても分かってるよ」
「場を盛り上げよう思て、わざと間違えたんや・・・それくらい、理解せえ」

小声ながら探に抗議する平次と快斗であったが、実は二人とも本気で間違っていたのは言うまでもない。
一〇時一〇分「バルバロッサ」のハッチが開き、帝国軍の代表が姿を現すと興奮の囁きが沸き起こった。
代表の先頭に立ち、黒地と銀であしらった帝国軍の士官服が似合い、赤毛の下に穏やかそうな表情を浮かべる若い士官こそローエングラム候ラインハルトの腹心であるジークフリード・キルヒアイスである。
両国の国歌ではなく、軍楽曲が響く中、要塞の床に足をつけたキルヒアイスは、彼を待っていた新一と向かい合って互いに敬礼をして自己紹介を行う。

「銀河帝国宇宙艦隊副司令長官のジークフリード・キルヒアイス上級大将です」
「自由惑星同盟イゼルローン要塞司令官・兼・駐留機動艦隊司令官の工藤新一大将です」
自己紹介を終えた二人が握手を交わすと無数のフラッシュが閃く。その中を二人は並んで式典の会場に足を運ぶ。
会場の中央には捕虜にリストと交換証明書が置かれていて、新一とキルヒアイスを待っている。

『銀河帝国軍及び自由惑星同盟軍は、人道と軍規に基づき互いの拘留するところの将兵をそれぞれの故郷に帰還しめる事を定め、名誉にかけてそれを実行するものである』

そう書かれた二通の証明書に二人は署名して、公職の印章を押し、交換して再び署名し、印章を押す。時間にして一分もかからなかったが、これで両軍四〇〇万の将兵が故郷に帰れる事になったのである。
サインをして再び握手を交わした二人を先程より多いフラッシュが閃いた。そんな状況下でキルヒアイスが新一に若々しい微笑みを見せた。

「形式というのは必要かも知れませんが、馬鹿馬鹿しい事でもありますね、工藤提督」
「同感です」

 新一はキルヒアイスを観察した。自身も若いが、キルヒアイスは二一歳でしかない。赤いの髪の毛、感じの良い青い瞳、ずばぬけた長身の若者でローエングラム候の部下の中でも屈指の驍将と知りながら、イゼルローンの女性たちはキルヒアイスに好感を抱いたようである。
アムリッツァで彼と直接、戦闘を交えた身であったが、自分より四歳下の若者を憎悪する事は難しかった。キルヒアイスも、新一に対して同じような印象を抱いたようで、別れ際の握手はおざなりではなかった。
味方の政治家より、敵の指揮官に好感を抱くというのは奇妙な話ではある。もっとも正面の敵の方が背後で策動する者よりはるかに堂々としている事は珍しくないし、現在の敵味方が永遠に固定しているワケでもないだろう。
キルヒアイスは長居はしなかった。パーティー会場で乾杯した後、すぐに帰還兵を従えて帝国領へと出発していった。要塞司令部の面々は彼の見送りに立ち会ったが、その場で新一はキルヒアイスにこう言った。

「こういう事を言うのも妙ですが、ローエングラム候やキルヒアイス提督とは、戦場で相見えるより、良き友人でありたいですね」
「そうですね。工藤提督とは敵ではなく良き友人でありたいものです」

最後に握手と敬礼を交わして別れた二人であったが、また出会う事になるのを知る者は誰もいない。誰もが未来よりも現実に目を向けているのである。
キルヒアイスは来るべき門閥貴族連合との戦闘、新一は帰還兵歓迎式典のため、一時的にハイネセンへ戻らなくてはならなかったが、公然と戻る口実が出来たワケであった。

 イゼルローンから四週間かけて、新一と蘭は首都ハイネセンに到着した。
本来であれば二週間の行程なのだが、未熟な航法士官のミスでハイネセンから一三〇〇光年離れた方角へ行ってしまっていたのだ。
そのため歓迎式典が二度も延期されたので政府首脳は頭から蒸気を吹き上げたようで、船団の案内と護衛に第一艦隊所属の巡航艦四隻と駆逐艦一五隻を差し向けて来た程である。
政府としては公式行事の予定は狂うし、何より経費も二重になるため、平然としていられるワケがなかった。

二〇〇万人の帰還兵と出迎えの家族、ジャーナリストの大群で大混雑する中央宇宙港を避け、ローカル旅客線と貨物線専用の第三宇宙港に着くと、新一は宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将に連絡を取った。
司令長官との連絡が終えた新一は安堵して、すぐ無人タクシーに乗り込み、官舎に向かう。ところが途中、倉庫と労働者アパートが集中しているハイド街で通行止めにぶつかってしまった。新一は、交通事故でもあったのか、と、思ってタクシーを降りた。
見ると警察官たちが大汗をかいて群衆を整理している。地上交通の中央管制システムが不備なのを人力で補っているようだが、通行止めの理由そのものが分からない。新一は近くにいた警察官に聞いてみた。

「何かあったんですか?」
「何でもない。危険だから近づかないように」

 矛盾した事を言いながら、警察官は新一を押し戻した。私服であるから、彼が誰なのか警察官は気付かなかったらしい。
元々、新一は特権を行使する事を嫌っているし、仮に行使したら余計に混乱に拍車を掛けかねないので、黙ってタクシーに乗り込んだ。
事情が判明したのは、大きく迂回した末、官舎に戻ってからの事である。薬物中毒の帰還兵がハイド街で三名を殺害し、まだ原因が解決していない、と、いう事らしい。
戦場において死の恐怖から免れるため、精神昂揚剤等を使用した兵士が中毒患者なって市民社会へ戻って来る―――そしてある日、恐怖と狂気が爆発する。
インスタントコーヒーを飲みながら、新一は思いついた事があってデータサービスバンクから犯罪統計に関する資料を電送した。
本来、彼のコーヒーを淹れてくれるのは蘭であるが、彼女は自分の自宅―――正確には小五郎の官舎―――に帰っているため、味も素っ気もないインスタントコーヒーを飲んでいるのだ。
新一の予測は的中していた。五年前と比較して、犯罪発生率は六五パーセントの増加、その一方で犯罪検挙率は二二パーセントの低下である。人心の荒廃が進むと同時に、警察官の質が落ちているのだ。
長期間にわたる戦争で多くの将兵が殺されて、軍隊は足りなくなった分だけ新たな将兵を補充する。その結果、社会のあらゆる分野で人的資源が不足する。いずれも熟練者が減り、その席は未熟者によって埋められるか、空席のまま放置されるのだ。
こうして軍隊を支える社会そのものが弱体化し、それは軍隊を弱くし、弱くなった軍隊はまた更に多くの将兵を失い、その補充を社会に求める。この悪循環こそ戦争が生み出す矛盾の結果、と、言っても良かった。

『戦争による破壊より、平和による腐敗の方が恐ろしい』

そう言う戦争賛美者はこの事実に気付いてるのか、と、手にした資料をテーブルに放り投げて、ソファの上に引っ繰り返った新一はそう思う。
更に、これだけ社会の崩壊が促進している状況で、戦争継続を唱える人間は余程のバカか、現実を把握出来ない無能者だろう、と、思わざるを得なかった。
 

 翌日午後の帰還兵歓迎式典、夜からは記念パーティー、どちらも新一が毛嫌いしているものだ。出席せずに済むなら、そうしたに違いない。
しかし、新一がイゼルローンからハイネセンまでやって来た表向きの理由はそれ等に出席する事であるから、欠席するワケにはいかないのだ。
相変わらずの美辞麗句、そしてヒステリックな軍国主義的熱狂、ユーモアを欠くダラダラとしたスピーチは彼を辟易させた。これならイゼルローン要塞で軍民交流などを目的としたパーティーの方が遙かにマシとである。
蘭は会場の片隅で所在なげに群衆の行き交うさまを眺めていた。記念パーティーには数多くの知名士やその令夫人併せて一万人で壮観といえば壮観であるが、その中をかき分けるようにして新一が蘭の元へやって来た。

「全く、ヤツと同じ空気を吸うだけでも気分が悪くなりそうだぜ」

そう言って新一が蘭にボヤいたのは、同盟の元首であるトリューニヒト最高評議会議長の事だ。この男が立体TV(ソリヴィジョン)に出てくるとチャンネルを替えてしまうほど、新一は嫌っている。良くしたもので、トリューニヒトも新一を避けているようだ。

「蘭、そろそろ抜け出すぞ」
「新一、これに着替えが入ってるわ」
「サンキュ」

万事、打ち合わせ済みである。蘭はフロント係に預けておいたバッグを受け取り、新一はトイレに駆け込んで目立たない服装に着替え、礼服をバッグに詰め込み、二人は誰にも気付かれずに会場から外へ出て行った。


 カーネルアイズの店―――と、言うのは、いささか誇大広告というものであろう。
それは労働者の多い下町の一角、タワーヒル公園の一角にある終日営業のささやかなスタンドである。貧しいが、若さと希望だけはたっぷりあるこの店で食べ物や飲み物を買い込んで常夜灯のベンチの下で話し込んだりしている、そんな場所なのだ。
軍隊で烹炊員(コック)をしていた働き者のカーネルアイズは忙しい時には客の顔などいちいち見ていない。老人と若い男女という客が来た時も照明が暗かった事もあって気にも止めなかった。
フィッシュ・アンド・チップス、アップルパイ、それにコーヒーとミルクティーを注文すると、ベンチの一つを占領して飲んだり、食べたりし始めた。若夫婦とその祖父、と、いったところである。何しろ二人ともパーティーでは食べる事より、出席者と話すために口を動かしていたからだ。

「やれやれ、こんなふうにこんな場所で人目を避けて話さねばならんとは、不便な事だて」
「オレは士官学校時代にアイツ等と一緒に門限破りをしていた事を思い出しますね」
「主犯格が服部くんと黒羽くん、新一が共犯、白馬くんは無理矢理誘われていた感があったけどね」
「あのな、蘭。白馬のヤツも結構面白がっていたんだぜ?」

老人が同盟軍宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将、青年がイゼルローン要塞司令官・兼・駐留機動艦隊司令官の工藤新一大将と知ったら、店主のカーネルアイズ氏も他の客も驚くであろう。二人は、それぞれパーティー会場を抜け出して、この場で落ち合ったのである。
フィッシュ・アンド・チップスという軽食の形態には郷愁をそそるものがあった。士官学校時代、新一は平次、快斗、探と共に寄宿舎を抜け出しては、安くて美味いこの種のスタンドで青春期の食欲を満たしたものだ。
ビールやワインで満足していればよいものを、バカラ、と、いう強烈なカクテルを注文し、店を出た途端、歩道に引っ繰り返って動けなくなったのだ。店主からの連絡で、美和子が車で駆けつけ、四人を後部座席に押し込んで厳格な教官に見つからないよう寄宿舎に運んでくれたのである。
もっとも美和子も教官であるから、宿酔(ふつかよい)の若者四人にお湯をぶっかけて、真冬の空の下で散々と説教をしたのである。この時、寄宿舎で彼等と同部屋であり、最上級生であった渉が取りなしてくれなかったら四人は風邪どころか肺炎になっていたかも知れない。
これ以降、四人は美和子と渉に“鬼の佐藤、仏の高木”という渾名を奉ったのである―――そんな新一の回想を老提督の声が中断させた。

「さて、ここなら誰にも知られる事はない。話を聞くとしようかの」
「そうですね」

いくつめかの鱈のフライをコーヒーで流し込むと、新一はおもむろに口を開いた。

「近いうちに同盟国内でクーデターが起こる可能性があります」

何気なさそうな口調ではあったが、フライドポテトを口に入れようとしたビュコックの手を止めるには充分過ぎた。

「クーデターじゃと?」

頷いて新一は淡々と、しかし詳細に彼の洞察したローエングラム候ラインハルトの意図を説明した。
クーデターを起こす者は、自らがローエングラム候のコントロールを受けているなどと思ってもいないだろう、と、いう事も。ビュコックは納得して頷いた。

「なるほど、しごく合理的だ。じゃがローエングラム候はクーデターが成功すると思っとるのだろうか?」
「成功しなくて良いんです。ローエングラム候としては、同盟を分裂させる事自体に意義がありますから」

なるほど、と、言ってビュコックは空の紙コップを両手で潰した。

「ただ、クーデターを使操するにあたっては、成功させる、と、信じ込ませる必要があります。緻密でしかも一見、実現性の高い計画を立案してみせた事でしょう」
「ふむ・・・」

地方的な叛乱は、よぼど大規模かつ他の地方への連鎖反応を伴わない限り、中央権力を揺るがせる事は不可能である。
もっとも効率的な手段は首都を内部から制圧する事であり、そのうえ政治と軍事の権力者を人質に出来れば万々歳である。
しかしネックとなるのが権力の中枢は武力の中枢でもある。蜂起したところで、強大で組織化された武力に直面すれば失敗し、成功しても三日天下で終わってしまう。
そこで首都における権力中枢の奪取と地方的な叛乱とを有機的にコンビネーションさせる必要が生じる、と。
説明を終えて最後のフライドポテトを口の中に放り込む新一の横顔を蘭は見つめていた。要塞に着任した頃から彼はローエングラム候の名前を幾度となく口にしていた。
それ故に蘭も、ローエングラム候が帝国との内乱に同盟が介入させないよう何か策を打って来る、と、いうのは理解していたが、幼馴染みの青年司令官の論理な展開に驚愕と尊敬の眼差しを向けた。

「つまり首都の兵力を分散させなければならない。そのために辺境で叛乱を起こす。鎮圧のために軍を出さざるを得ん。出かけた留守を本命が押さえる・・・ふむ、上手く行けば絵に描いたように見事にはなるな」
「さっきも言いましたが、ローエングラム候にとってはクーデターが成功する必要はないんです。帝国内の動乱に同盟が介入するような事にならなければ、目的を達する事が出来ますからね」
「しかし、面倒な事を考えたものだて」
「やる方にとってはそうでしょうが、やらせる方は労力を必要とするワケでもありません」

あの不敵かつ戦争の天才であるラインハルト・フォン・ローエングラムにとって、これは食後のコーヒー程度にしか過ぎないのだろう、と、新一は思う。

「それで新一は、誰がクーデターに加担するかは分かるのかね?」
「さすがにオレでも、そこまでは無理ですね」
「で、ワシは近く発生するであろうクーデターを未然に防がねばならんのじゃな?」
「はい。発生すれば鎮圧に大兵力と時間を必要で傷も残りますが、未然に防止すれば憲兵の一、二個中隊で事は済みます」
「ふぅむ・・・それは責任重大じゃな」
「それと、もう一つお願いがあります」

蘭の耳に入らないほど、新一の声が一段と低くなり、ビュコックは耳を寄せて、小さく頷いた。

「分かった。明日にでも届けさせよう。もっとも、そんな物が役に立たんに越した事はないがな・・・それでは帰るとするかの」
「お手数をおかけして申し訳ありません。事が事だけに第三者に口外出来るような話ではありませんので」

公園を歩きながら、ビュコックが思い出したかのように新一と蘭にこう言った。

「おお、そうじゃった。新一が願い出ていた毛利大佐のイゼルローン着任の件だが、人事部が納得してくれたよ。近いウチにイゼルローンに着任するじゃろう」
「えっ、お父さんが!?」
「うむ。毛利大佐だけでなく英理さんもイゼルローンへ行く事が決まったそうじゃ。英理さんの場合はハイネセンの弁護士協会がイゼルローンに派遣する弁護士だそうだ」
「良かったな、蘭・・・もっとも母さんが、どうして英理と小五郎くんがイゼルローンで、優作と私はハイネセンなのよ、と、言いだしそうだな」
「まあ、そこは阿笠夫妻もおるし、ヴィンヤード女史もおる。ワシ等夫婦も余裕が出来たら遊びに行くから心配せんでも良い、と、有希子さんに伝えておいてくれんかね」

談笑しながら公園を出た三人は公園の横にある街路を行進する一〇〇人ほどの集団に出くわした。
赤く縁取った白い長衣を身に付け、聖地を我らの手に、と、書かれたプラカードを掲げ、呪文か祈りか分からない言葉を詠唱しつつ、緩やかに歩いて行く。

「何ですか、あの集団は?」
「うむ。最近、流行りだした宗教団体で、地球教、と、言うそうだ」
「地球と言えば、人類発祥の星ですか?」
「蘭くんの言う通りじゃよ。今は帝国領の彼方にある地球を聖地として崇め、この戦争を聖地奪還のための聖戦として積極的に協力するそうじゃ」
「バカな。今更、十字軍気取りかよ?」
「時代錯誤も甚だしいが、右翼団体には違いないな。まあ憂国騎士団が、衣替えをした、と、いうところだ」

ビュコックと別れて無人タクシー乗り場へとあるきながら、蘭はふと思った。今頃、クーデターを計画している人たちも人目を避け、何処かで密談をしているのだろうか?
その事を蘭が口にすると、新一はおかしそうに口元を綻ばせて言ったものだ―――オレたちと同じ物を食べてるか、コーヒーを一杯だけ。そしてオレたちより深刻な表情をしてな、と。


 窓もなく、所有者の個性を示す調度品もない殺風景な部屋である。照明も薄暗く抑えられており、会議用のテーブルには料理はおろか、コップ一杯の水すら置いていない。それを囲んだ一〇人程の男たちの顔もハッキリとはしない。

「では、もう一度確認しておこう」

低い声が参列者を一つの方向に振り向かせた。壁の一部がそのままディスプレイになって、自由惑星同盟の領域を天頂方向から俯瞰する星図を表している。

「最初の一撃は惑星ネプティス。標準暦四月三日だ」

星図の右下方に赤い点が輝き、男たちの間にかるい囁きが交わされる。第二撃は惑星カッファー、四月五日。第三撃は惑星パルメレンド、四月八日。第四撃は惑星シャンプール、四月一〇日。
男は説明し、四ヶ所の蜂起地点が首都ハイネセンを中心とした仮想球体の表面近くにあって互いに遠く離れている事を星図によって示した。政府は鎮圧部隊をそれぞれ全く別方向へ派遣しなくてはならない。

「これだけやっておけば、首都は武力の真空地帯となる。少数の兵で要所を制圧する事が可能になるのだ」

更に同盟最高評議会、同盟議会、同盟軍統合作戦本部、宇宙艦隊司令部、軍事通信管制センターなどの占拠目標の名が挙げられ、襲撃の時刻、指揮官、人数などが確認される。だが、細部は過去一〇回以上の会合で検討されており、出席者は計画の全容と自己の役割を完全に承知しているのだった。
出席者たちには共通の認識があった。このままでは自由惑星同盟は滅びる、と、いう危機感である。昨年のアムリッツァ星域会戦でこうむった打撃の巨大さもさることながら、急速に進む政治の腐敗、経済と社会の弱体化が彼等の危機感に拍車を掛けていた。座長が列席者を見渡して口を開く。

「理想を失い、腐敗の極みに達した衆愚政治を我々の手で打倒しなくてはならない。これは正義の戦いであり、国家の再建に避けては通れない関門なのだ」

その声には充分に抑制が利いており、狂信者的な自己陶酔とは一線を画すものがあった。彼に対する信望を示すように、一同は等しく頷いた。
ここで問題となる人物がいる―――その座長の声が改まり、参列者たちは心もち姿勢を正した。

「イゼルローン要塞司令官・兼・駐留機動艦隊司令官の工藤新一提督だ。首都にいなかったという事もあり、彼を同志の一員としてはいないが、意見があれば言って貰いたい」

 男の声が終わると、さっそく議論が始まった。
彼を味方に引き入れれば、その知略と人望は大いに有用であり、イゼルローンの戦略価値も無視出来ない。彼が同志となればハイネセンとイゼルローンの二ヶ所から全領土を制圧出来る。
ただ時間的余裕がない。三月末までに事を始めるまでスケジュールが詰まっているというのに、彼を説得する時間があるのか・・・いろいろな意見が出る中、ある意見が今までの意見交換を中断させた。

「あんな男を同志に引き込む必要はないでしょう」

その声は一同の中で最も若い声であったが、奇妙に陰気で活力に欠けていた。強引に断定する口調と、声の質との間に微妙な不調和があるのだ。他の出席者たちが白けた雰囲気になりかけた時、窘めるように、座長格の男が口を開いた。

「感情に走らない方がいいな。だが工藤提督を同志とするには時間が無いのは確かだ。むしろ蜂起の後に改めて考えたい。シャンプールの蜂起には、地理的条件からいって彼に鎮圧の任が与えられるはずだ」

イゼルローンからシャンプールまでパルス・ワープ航法による最大戦速でも五日間を要する。ここで首都にクーデター発生との報告が届き、その場から急行したとしても最低二五日間は必要である。合計三〇日。
その間に首都は完全に制圧出来るし、何よりも首都星ハイネセン周辺には一二個の戦闘衛星を連ねた「月女神(アルテミス)の首飾り」がある限り、あの“不敗の天才”と言えども、ハイネセンを奪取するのは容易ではなく、立ち往生せざるを得ないだろう。

「そういう状態で工藤提督と話し合えば、案外、容易く味方にする事が出来るかも知れない。差し当たり我々は予定通りに行動し、権力中枢を掌握した後、新体制の実力と権威を拡大する事になるだろう」
「提案があります」

先刻と同じ、若いが陰気な声が、一同の視線を集中させた。

「同志の一人をイゼルローンへ送り込み、あの男を監視させるべきです。もし我々にとって不利益な行動を執るようなら抹殺すべきでしょう」
「いや、それは拙い。彼の配下には“絶対零度のカミソリ”と“紅き魔女”もいるのだぞ?それに今回の人事で諜報のプロである毛利小五郎がイゼルローンに着任する、との事だ。そのような策は見破られてしまうだろう」
「では、蜂起と同時に彼の両親を人質として取るのはどうでしょう?」

間を置いて、今度は賛成する声が複数の人影から起こった。成功にとって危険な要素は例え小さな芽のウチから排除すべきなのだ。

「反対はいないか?良かろう、今の意見を採用する。権力中枢を抑えると同時に工藤提督の両親を拘禁する」

早急に人選を進めよう。ただし危害だけは絶対に加えないよう―――そう付け加えた座長格の男の口調には気の進まぬ様子があった。
部屋の隅に座ったまま、密談を傍観していた男が酒くさい息を吐き出した。その手にはウイスキーの瓶があり、中身は半分に減っていた―――彼の名はアーサー・リンチといった。
どいつもコイツも運命の手の上で踊り狂うが良い。途中で足を踏み外して転落するか、死ぬまで踊り続けるか、それはお前等の力量次第だ。リンチは心の中で悪意の呟きを漏らした。
自分が望んでいるのは、クーデターの成功なのか、失敗なのかは知った事ではない。四年前のあの時以来、自分自身の未来すら関心の対象となりえなかったような気がする。
あの時まで、リンチの人生はそれほど悲観的なものではなかった。前線でもデスクワークでも一応の功績を挙げ、四〇歳そこそこで少将となり、閣下と呼ばれていたのだが、ほんの一歩を踏み外してしまった。
エル・ファシル星域で帝国軍と戦った時、異様な恐怖に捉えられ、守るべき住民を気にくわない部下に押し付けて逃亡を図った挙げ句、帝国軍の捕虜となってしまったのだ。彼は生きながら同盟軍の恥部となり、卑劣漢としての日々が始まったである。
さて、どう事態は転ぶだろうか―――リンチは目を閉じた。彼の脳裏に浮かぶのは黄金の髪と蒼氷色(アイスブルー)の瞳を持つ覇気のある若者の姿だった。


 リンチが銀河帝国軍宇宙艦隊司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム侯爵に呼ばれたのは、その前年の一一月の事だった。ラインハルトが帝国領内へ侵攻して来た同盟軍をアムリッツァ星域で大破して、程なくの事である。
エル・ファシル星域で不名誉な捕虜となって以後、彼は辺境星区にある矯正区で生活していた。捕虜収容所というものは帝国には存在しない。叛乱軍の将兵は、帝政に反する悪質な思想犯、と、して“思想と道徳の矯正”を目的とする、この種の施設に収容されるのである。
一方、自由惑星同盟の方では、最初は帝国軍の捕虜を客人のごとく厚遇していた。自由な社会体制の良さを肌で教育してやろう、と、いう一種の心理作戦であったが、一世紀半も戦いが続くと見栄を張る余裕も無くなって来る。そのため最近の捕虜たちの待遇は一般社会と刑務所の中間といったところだった。
リンチと彼の旧部下たちは一つのコロニーにかたまって住んでいた。後から矯正区入りした将兵の口からエル・ファシルでの不名誉が伝えられ、他の捕虜たちから白眼視されるようになったのである。彼は酒に逃避した。何と罵られようと、弁解の出来ない立場がそうさせたのである。
更に新参の捕虜たちから、妻が籍を抜いて二人の子供を連れて実家に帰った事、そして自分が逃亡するためにエル・ファシルの民間人脱出計画を押し付けた工藤新一が中将(当時)である事を聞いてリンチはますます酒にのめり込み、それに比例するかのように評判を落とした。
今では彼の旧部下たちでさえ、露骨な蔑みと嫌悪の目で彼を見るようになった。そこへ一隻の駆逐艦が現れ、彼を帝国首都オーディンへと連れ去った。

 ローエングラム候ラインハルトは、外見からして非凡そのものであった。
年齢はその時、二〇歳であったが、すらりとした長身は優美さと精悍さの絶妙なバランスが見られた。
やや癖のある黄金色の髪は昨年より長く、獅子のたてがみを思わせるスタイルになっている。白皙の肌と端麗を極めた目鼻だちは、造形の女神の寵愛を一身に独占しているかのようだった。
たが、天使のような、と、表現するには、蒼氷色の瞳から発せられる鋭い眼光は烈しすぎた。神をも凌ぎたいと熱望する堕天使(ルシファー)の光であったかも知れない。

「アーサー・リンチ少将だな?」

彼がいる部屋は机と椅子しか置いておらず、衛兵たちの手によってリンチは椅子に座らせられたところだった。ラインハルトの声には温かさが欠けていたし、彼自身もそれを理解しているが、改める気にはなれない。何故なら、目の前にいるのは彼が嫌悪する唾棄すべき恥知らずだった。

「・・・アンタは?」

ラインハルトが冷たい声で名乗ると、リンチは赤く濁った目を見開いた。

「へえ、アンタがね・・・若いな、若い。エル・ファシルを知ってるか?三年・・・いや四年前だったかな?アンタ、その頃は青春を謳歌していただろう・・・オレは少将だったんだぜ?」

ラインハルトの横に背の高い赤毛の青年士官が立っていたが、その青い目には嫌悪と憐憫の色があった。

「ラインハルト様。このような男、役に立つでしょうか?」
「役に立たせるさ、キルヒアイス。でなければ、この男に生きている価値はない」

金髪の若い元帥は氷の剣で突き刺すような視線でリンチを見やった。

「何度も言わぬから、良く聞いておけ、リンチ。お前にある任務を与えてやるから、それを果たせ。成功したらお前に帝国軍少将の位をくれてやる」

反応は遅かったが、赤く濁った目の奥に灯が点ったように見えた。脳を囲むアルコールの霧を振り払うかのように、リンチは何度も頭を振った。

「少将・・・ははっ、少将ね・・・そいつは悪くない。で、何をすれば良いんだ?」
「お前の故国に潜入し、軍内の不平分子を煽動してクーデターを起こさせるのだ」
「・・・む、無理だ。そんな事は不可能だ。アンタ、素面で言ってるのかね?」
「可能だ。ここに計画書がある。この通り実行すれば、必ず成功する」

そう言ってラインハルトが机の上に計画書を放り投げた。リンチの目が再び鈍い光を湛えた。

「しかし・・・潜入に失敗すれば、オレは死ぬ。きっと死ぬだろうな・・・殺される」
「その時は死んでしまえ!」

ラインハルトの声は鞭となって空気を切り裂いた。

「今のお前に生きる価値があると思っているのか?お前は卑怯者だ。守るべき民間人も、指揮すべき将兵も見捨てて逃亡した恥知らずだ。誰一人、お前を弁護しはしない。そんなになってもまだ生命が惜しいか!」

その鋭い声は、アルコールに侵されたリンチの薄暗い精神を圧倒し、覚醒させた。精神の持つエネルギーの質と量に多大な差があった。彼は全身を戦慄(わなな)かせ、汗を流して座っていた。

「そうだ、オレは卑怯者だ・・・今更、汚名の晴らしようがない。だとすれば、徹底的に卑怯に、恥知らずに生きてやる。よし、やろう。少将の件は間違いないだろうな?」

エル・ファシルで民間人を見捨てる前に彼が持っていた鋭い声と出すと彼は顔を上げた。目の濁りは消えようもなかったが、その奥には今までなかった炎が蠢いていた。



 それから数ヶ月後、捕虜交換式から帰還したキルヒアイスは元帥府執務室で帰還の報告をしていたが、ラインハルトがそれを中断させた。

「リンチの件が成功すれば、工藤新一は国内の事に追われて帝国には手を出せまい」

そう言った後、キルヒアイスに、工藤新一に会った感想を聞こうか、と、言って彼は赤毛の友を見上げた。

「はい、ラインハルト様と同様の才幹の持ち主であると感じましたが、それを表に出そうとせず、懐深く、自然体で、しかも今回の策も既に見抜いているものかと」
「何!?では何故、こちらの策に乗るのか?」
「それは分かりません。何か手を考えているのか、それとも如何なる状況からでも逆転できる自信があるのか・・・しかし、そこが工藤提督の恐ろしさかと思います」
「ふむ」
「何れにしても敵としては、これほど恐ろしい相手はいませんが、友人としては、これに勝るものはないかと。工藤提督も、ラインハルト様や私とは戦場で相見(まみ)えるより、良き友人として会いたい、と、仰っていました」
「キルヒアイスにそこまで言わしめる程の男とはな。工藤新一、どんな形にせよ一度は会ってみたいものだ」

ラインハルトの声にキルヒアイスも頷いた。
宇宙暦七九七年、帝国暦四八七年の幕開けは、一見平穏そうであったが、誰もがその後に来るであろう嵐を予感せずにはいられなかった。




続く





注:「銀河英雄伝説」は田中芳樹先生、「名探偵コナン」「まじっく快斗」は青山剛昌先生の著作物です。
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