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プロフィール

槇野知宏

Author:槇野知宏
宮崎県児湯郡生まれ。
宮崎県児湯郡在住。

「名探偵コナン」
「まじっく快斗」
「BLACK LAGOON」
「艦隊これくしょん」
「ファイアーエムブレム」シリーズ
「ペルソナ」シリーズ
(特に3と4)
「マクロスF」
「パワプロ」シリーズ
「田中芳樹」
「池波正太郎」
「司馬遼太郎」
「有川浩」
「TUBE」
「山本正之」
「NO-PLAN」
「クラシック」
「プロレス」
「中日ドラゴンズ」
を偏愛する会社員
その実態は、単なるオタク。

年を取る毎に深みにハマってますが、これも人生、問題ない、と開き直ってます(笑)

PASSの掛かっている日記(小説)につきましては「PASSについて」をご覧下さいませ。

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2013/10/01 (Tue) 09:11
銀河探偵伝説(23)

「オレたちには、時間がない」

 蘭に新一は説明する。
ラインハルトがイゼルローン回廊の制圧が未だに完遂出来ていない、と、知った以上、膨大な兵力の増援軍を派遣するのは必至である。
少数の兵力であれば、結果として、兵力の逐次投入、と、いう愚を犯す事になるが、あの戦争の天才がそのような事をする事はない。
もし、敵の増援が来るまでに、イゼルローン周辺宙域を回復していなければ、新一の勝算はゼロに近くなるだろう。蘭が新一に尋ねた。

「これまでは時間が味方してくれたけど、これからはそうじゃないという事ですか?閣下が敵の指揮官なら、既にイゼルローンを陥落させていたでしょうね?」
「オレだったら、要塞に要塞をぶつけてたさ。これで両者共倒れ。後は他の要塞を引っ張って来るなりすれば良い。もし帝国軍がその策(て)で来たら、対策はなかったんだが、敵の指揮官は発想の転換が出来なかったようだな」
「かなり過激な方法ですね」
「でも、有効だろ?」
「それは認めます」
「さっきも言ったけど、それで既にやられていたら対策なんか存在しないが、これからその策で来る、と、いう事なら、一つだけ方法がある」

 そう語る新一の表情を、蘭は、推理小説の推理を解き明かしていく少年のようだ、と、思う。子供の頃から少しも変わらない不敵な笑みを浮かべ、瞳には知性を感じさせる光が帯びている。
不敵な表情とは裏腹に新一の心は重い。帝国軍の指揮官は、移動させてきた要塞を、イゼルローン要塞攻略の拠点としてしか活用していないようだ。それは弱体化した同盟軍にとっては好運であろう。
 人材の枯渇は同盟軍に於いては深刻だ。アムリッツァにて散った二〇〇〇万の将兵、先年のクーデターに参加した将兵―――結局、一昨年来、新一はその敗戦処理をし続けているに等しい。
ウランフやボロディンといった、アムリッツァで戦没した勇将たちの一人でも健在であれば、新一の負担はかなり軽減したであろう。だが、それは無益な空想である事を彼は知っていた。死者は絶対に蘇らないのだ。この世の事は生者だけで解決しなければならないのだから。



 一方、帝国軍は困難な状況の中で、執るべき方針を決定していた。ケンプの方針は次のようなものだった。
まず、イゼルローン要塞前面より急速撤退する。それを要塞内の同盟軍が見たら、救援が来たために帝国軍が後退した、と、考え、この機を逃さず挟撃に出ようとして要塞から出撃するところを反転して叩く。
すると同盟軍は、救援軍の到着は自分たちを要塞から誘い出す罠だった、と、思って再び要塞内に引き篭もるであろう。こうして彼等を要塞内に封じ込めておいて再反転し、救援に駆けつけた同盟軍を撃破する。時差(タイムラグ)をつけての各個撃破戦法である。
 その案を提示された時、見事だ、と、ミュラーは思ったが、不安も禁じ得なかった。この作戦が成功すれば、用兵の芸術家、と、ケンプは称揚される事になるだろうが、此方の思惑通りに敵が踊ってくれるかどうか。
技巧的で、しかも時間的に余裕のない作戦であり、一歩間違えれば挟撃される事になる。各個撃破の方針は正しいと思われるから、ガイエスブルグ要塞をイゼルローン要塞の監視に置いておき、全艦隊をもって、敵救援軍を叩くべきではないか。
 そう考えたミュラーは、ケンプにその旨を具申した。幾つかの事情から、この行動には多少の勇気を必要としたのだが、ケンプは度量を示し、ミュラーの考えを一部取り入れて作戦に多少の修正を加えた。

「援軍、それとも罠?」

 イゼルローン要塞中央指令室では、志保が首をひねっていた。
要塞周辺に纏わり付いて、執拗な波状攻撃をかけ続けていた帝国軍艦隊が引き潮のごとく後退してゆくのだ。ガイエスブルグ要塞は依然として六〇万キロの距離にあり、何時でも砲戦に応じる構えを見せている。

「参謀長。敵の動きをどう思うかしら?」
「そうですね・・・恐らく両方でしょう」
「両方?」

 志保が問い返したので、探が答えようとしたのを手で制して、代わりに答えたのは平次だった。

「工藤ん援軍は近くに来とるのは間違いない。敵さんはそれを知って、逆に罠を仕掛けようとしとるんちゃうか?オレ等が出て来た時に全面攻勢をかければ、これは罠や。引き上げろ、ちゅう事になるさかいな。そこで駐留機動艦隊を封じ込めといて、ヤツ等は援軍を叩くために全力を挙げる、と、いうワケや」
「服部くんの言う通りですね。帝国軍の動きがあまりにも不自然すぎます」
「それはそうかも知れないけど、それだけであなたたちの判断の根拠になるの・・・黒羽くん、何か言いたそうね?」
「ヤツ等が純粋に罠を仕掛けるとすれば、伏兵をしいているか、オレたちの出撃に食い付いて逆に要塞内に侵入するかの何れかだからな。ただ、オレたちが防御に徹して遠くに出撃しない事は敵さんも充分に分かっているはずだ。そうなれば・・・白馬、あとヨロシク」
「彼等としては、こちらの防御心理を利用したつもりで封じ込めに出るでしょう。こちらが用心して出て行かない、と、いう計算の方が、ずっと確率が高いワケですからね」

 志保は探、平次、快斗の顔を見渡して感歎の息を吐いた。さすがは新一と士官学校の首席を争った面々である、と。彼女はメルカッツに対応策の意見を求めた。

「そういう事であれば、話は難しくはない。我々は彼等に封じ込められたふりをすれば良いのです。そして彼等が反転した時、突出してその後背を撃つ。救援軍との呼吸が合えば、理想的な挟撃戦が展開出来るでしょう」

 淡々としてメルカッツは言い、出撃の指揮を執ってくれるように、との志保の要請を受け容れた。



「戦争を登山に例えるなら・・・」

 かつてそう語ったのは「ダゴン星域会戦」で同盟軍を完勝に導いた“ぼやきのユースフ”ことユースフ・トパロウル元帥である。

「登るべき山を定めるのが政治だ。どのようなルートを使って登るかを定め、準備をするのが戦略だ。そして、与えられたルートを効率良く登るのが戦術の仕事だ」

 新一の場合、登るべきルートは既に定められている。たまには自分自身の手でルートを定めて登ってみたい、と、痛切に思っているが、それは全て蘭絡みの事である。

「前方、一一時半の方向に敵艦隊!」

 オペレーターの報告が増援部隊将兵の心身を引き締めた。
味方は七五〇〇隻、それに比べて帝国軍はその二倍である。正面から戦って勝てるはずがない。敵の後背に、駐留機動艦隊の出現を待つしかないのだ。
しかし、新一は自分の艦隊が思い通りに動いてくれる事を確信していた。要塞には百戦錬磨のメルカッツがいる。彼は必ず信頼に応えてくれるだろう。そして彼の意図を読んでくれる友人たちもいる。

「敵艦隊、射程距離に入ります」
「よし、後退!敵との相対速度を零(ゼロ)に保て!!」

 新一の命令が全艦隊に伝わった。



 帝国軍はイゼルローン要塞から出撃して来た同盟軍艦隊と軽く一戦を交えて彼等を要塞内に後退させた(と、思い込んだ)
援軍に駆けつけた同盟軍の艦隊行動を見て、ケンプは指揮シートに巨体を埋めたまま考え込んでいたが、ある懸念を抱いて質問した。

「敵が縦深陣をしいて、我が軍を引き込もう、と、いう可能性はないのか?」

 司令官の疑問に答えるため、今まで得られたデータの徹底した洗い直しと、幕僚やオペレーターたちの会話の末、見解が弾き出された―――敵の増援戦力は前面に展開しているものだけである、と。 

「それならヤツ等の意図は時間稼ぎだ。イゼルローンから味方が突出するのを待って、前後から挟撃する気だろう・・・その策(て)に乗るか!」

 この時点でのケンプの洞察は完全に正しい。彼は力強い掌(てのひら)で、指揮シートの肘当てを叩くと、最大戦速での前進を命じ、更に三分後の砲撃開始を指令した。
可能な限り短時間で、同盟軍の増援部隊を撃破し、とって返して、再びイゼルローン要塞を包囲する。いやそれどころか、ミュラーの献策に従い、ガイエスブルグにイゼルローンを牽制させる事で、これまで不可能とされた回廊内の通過を果たしつつある。そうすれば、勝利した後、そのまま同盟領へ突入する事も出来るのではないか。

「敵、射程距離内に入りました!」
「撃て(ファイエル)!!」

 数万本の光の矢が帝国軍から放たれ、漆黒の空間を駆け抜けた。
一瞬にして、狭いイゼルローン回廊は、エネルギーの波濤に満たされた。目を奪う色彩の渦が巻き起こり、両軍艦艇乗員の目を痛めつけた。
数に劣る同盟軍艦艇は痛打を受け、閃光を発して砕け散り、直撃を免れた艦もエネルギーの余波をかぶって激しく揺れ、戦艦「ヒューベリオン」より、三割ほど小さく、防御力も劣る臨時旗艦「レダⅡ」も例外ではなかった。
この振動で、何時も通り腕組みして立ったまま指揮を執っていた新一はその衝撃で蹌踉めいたものの、右手で指揮シートを掴み、余った左手で倒れかけた蘭の腰辺りを掴んで引き寄せた。

「し、新一・・・ほ、他の人が見てる・・・」
「蘭、フォーメーションD(デルタ)だ。復唱しろ」

 羞恥心で顔を真っ赤にさせた蘭を尻目に新一は、普段通りの冷静さを崩さない声で彼女に言い、態度を改めた蘭はそれを受けて叫んだ。

「ぜ、全艦隊、フォーメーションD!」

 それは円筒陣の一種だが、より極端な形で、殆ど輪状に敵を包囲するものであった。そして同盟軍は、輝く光点の輪の中を潜り抜けようとする帝国軍に対し、上下左右から砲火を浴びせた。
砲火は自(おの)ずと、円の周囲から中心へ向けて一点集中する形になり、破壊の効率を著しく増大した。前進する帝国軍の艦艇は、別方向から襲い掛かる複数のビームに貫かれ、輪状に切り刻まれて火球となった。
このフォーメーションは広大無辺な宇宙空間で使用すれば、輪を突破した敵は、そこで隊形を拡散し、反転して外側から輪を包囲する事が出来るが、この狭い回廊では不可能であった。回廊の特殊な地勢を利用して新一が考案した戦法である。
同盟軍に第一撃を叩き付けた後、帝国軍は一転して守勢に立たされたのである。そこへオペレーターの悲鳴に近い報告が、ケンプの巨体を指揮シートから引き摺り起こした―――後背から敵襲です!
報告を受けたケンプは、イゼルローンの同盟軍艦隊は要塞内に逃げ戻ったのではなく、逃げ戻ったふりをして自分たちの動静を窺っていた、と、いう事に気付いて愕然とした。
 それはメルカッツが指揮するイゼルローン駐留機動艦隊だった。彼等は帝国軍の後背、しかも天頂方向から驚くべき速度と圧力をもって襲い掛かっていた。
帝国軍の後続部隊は、決して油断していたワケではないが、動揺を禁じ得ず、高密度で浴びせられるビームとミサイルの雨に打たれて、次々と破壊されていった。そこへ新一の新たな指令が下される。

「フォーメーションE(エコー)!」

 輪状陣を形成していた混成艦隊は、多少の不統一性を見せながらも、急速に陣形を収斂(しゅうれん)させ、漏斗(ろうと)状に変形を果たした。突進する帝国軍は、今度は重層的なビーム攻撃に晒され、白熱したエネルギーの濁流に飲み込まれて行く。
そして後方からは、美和子、渉、平次、快斗たちが熱狂的なまでの攻撃をかけ、勝利の確信に駆られて、工藤艦隊の攻撃の特色である火力の局所集中を行い、帝国軍を不本意な死へと導いている。
 このような時、無能な指揮官であれば、艦隊を二つに分けて前後の敵に対応させ、逆に危機を切り抜ける事が出来たかも知れない。無秩序な乱戦の中から、意外な勝機が生まれる事もあるのだ。
だが、ケンプは用兵家としての実績と自負を充分に持ち合わせた男であり、指揮官としての責任と権限を放棄するような命令を出せよう筈もなかった。副司令官のミュラーは、絶望の黒い染みが心の中を次第に浸食していくのを感じたが、それでも最善を尽くそうと決意していた。
後悔の種は無数にあったが、現在は、艦列の崩壊を防ぎ、味方を救う事が急務であった。彼は指揮シートから立ち上がり、鋭い的確な命令を次々と発して、危機を脱しようと試みた。圧倒的に不利な態勢であり、目に見える効果は現れなかったが、状況の悪化するスピードを減じてはいた。
しかし、その努力も尽きかけていた。ケンプもミュラーも味方の窮地を救おうと必死になって戦場を駆け巡ったが、その間に火球となって炸裂する僚艦を幾つも眼前に見た。戦線と司令部との距離は、零に等しかった。帝国軍は前面敗北の深淵に、今や雪崩落ちようとしている。

「退却するな!」

 怒号するケンプの額から汗が玉となって飛んだ。

「退却してはならん!あと一歩。あと一歩で銀河系宇宙が我々のものになるのだぞ!!」

 ケンプの言葉は、このような状況下にあっても決して誇大なものではなかった。同盟軍の防衛ラインの背後、イゼルローン回廊の出口の彼方には、殆ど無防備の状態に置かれた恒星と惑星の大海が広がっているのだ。一度、防衛ラインを突破されれば、ケンプとミュラーは艦隊を駆って同盟領へ乱入するのは必至である。
その時、イゼルローン回廊を守る同盟軍はどう動くべきか?ケンプとミュラーを追えば、回廊はがら空きとなり、二陣に控えていた帝国軍の勇将・名将たちが回廊に殺到して来た時、これを防ぐ者は誰もいない。回廊は、帝国軍が銀河系宇宙を征服するための通路として、後世からその歴史上の役割を指摘される事になるであろう。
 では、必ず殺到して来るであろう敵の第二陣を迎撃するため、ケンプとミュラーを無視して回廊を守り続ければ良いのか?そうすれば、彼等は同盟領を思うままに荒らし回り、首都星ハイネセンを攻略するかも知れない。より大きな可能性としては、回廊に近い星系を占拠して、そう遠くもない時機を待ち、第二陣が回廊に侵入した時、それに呼応して反転し、回廊内の同盟軍を前後から挟撃する、と、いう戦法がある。
これは帝国軍にとって必勝必殺の戦法であり、同盟軍としては想像しただけで心臓に激痛を覚えざるを得ない・・・はずなのだが、新一は深刻に悩む気になれない。そうなったとしても、自分の責任ではない、と、思っている。その結果、自由惑星同盟が消滅しても人間は残る。
国家が消滅して最も困るのが、国家に寄生する権力機構中枢の連中であり、彼等を喜ばせるために、人間が犠牲になる必要など、宇宙の涯(はて)までその理由を探しても見つかるはずもない。新一個人の問題にしても、彼一人が国家の興亡の全てに責任を持てるはずがないのだ。



 帝国軍において、最後まで敗北を信じなかったのはケンプである。
だが、彼自身は不屈の戦意を満たしていたとしても、幕僚や将兵たちは既に戦意を萎えさせていた。スクリーンに、破壊される味方艦艇の姿を見る彼等の顔に血の気が薄い。

「閣下、もはや抵抗は不可能です。このままでは死か捕虜か、何れかが我々を待ち受ける事になります。申し上げ難い事ながら、撤退なさるべきでしょう」

 参謀長フーセネガー中将が蒼白な頬を震わせて進言した。
司令官は灼熱した眼光で参謀長を睨んだが、参謀長を居丈高に怒鳴りつけるほど理性は失っていなかった。ケンプは荒い息を吐くと、一秒毎に数を減らし戦線を縮小させてゆく味方の断末魔の姿を、苦悶に耐える表情で見守った。

「そうだ、あれがあった・・・」

 不意に呟いたケンプの顔に生色が蘇るのを、フーセネガーは異常なものに感じた。

「まだ最後の手段がある。あれを使ってイゼルローン要塞を破壊するのだ。艦隊戦では負けたが、まだ完全に負けたワケではないぞ」
「あれと仰有いますと?」
「ガイエスブルグ要塞だ。あの大きいだけの役立たずをイゼルローン要塞にぶつけるのだ。そうすれば、イゼルローン要塞とて、ひとたまりもない」

 それを聞いたフーセネガーは疑惑を確信に変えた。
ケンプほど指揮官としての度量に富んだ男でも、窮するあまり、精神のバランスを欠く事があるのだろうか?だが、ケンプは静かな自信に満ちてガイエスブルグへの撤退を命じたのである。



 イゼルローン駐留機動艦隊と救援部隊は、遂に合流を果たした。

「メルカッツ提督、お礼の申しようもありません」

 深々と、新一は一礼した。通信スクリーンにメルカッツの重厚なそうな顔が映っている。
二人の背後では、勝った、勝った、という無数の情熱的な叫びと共に無数の艦隊識別帽(スコードロンハット)が宙を乱舞していた。そこへ「レダⅡ」のオペレーターの報告が新一の耳に入った。その声には畏怖の響きがあった。

「ガイエスブルグ要塞が動き出しました!」

 同盟軍の歓喜は、一瞬で氷点下まで急降下した。まだ完全に勝ってはいなかったのである。

「現針路だと・・・イゼルローン要塞へ向かっています!まさか、激突する気では!?」
「気付いたな・・・だが、遅過ぎた」

 呟く新一の横顔に、蘭が視線を走らせた。彼の声に同情めいた響きを感じたからである。
事実、新一は敵の司令官に同情していた。要塞に要塞をぶつける、などという戦法を、正統派の用兵家が発想するはずはない。そんな事を考えるのは、自分以外には、比類ない天才ラインハルト・フォン・ローエングラムか、戦争の“せ”の字も知らない素人であろう。
正統派の用兵家としては、要塞の存在また利用価値は、火力と装甲をもって敵要塞に対抗する、と、いう事を考えるはずで、要塞それ自体を巨大な爆弾として利用する、などという発想の方が異常なのである。
その異常な発想に至らざるを得なかった司令官の苦悩を新一は思わざるを得ない。だが、彼をその窮状に追い込んだのは新一自身なのである。他人から見れば、新一の思いは偽善と言われてもおかしくはない。だが言いたい者には言わせておけば良いのだ。
 ガイエスブルグ要塞は、帝国軍の残存部隊を従え、一二個の通常航行用のエンジンをフル・パワーにしてイゼルローン要塞へと接近しつつある。
暗黒の虚空を音もなく羽ばたく巨大な禿鷹(ガイエ)―――それは同盟軍を圧倒した。全艦のスクリーンの前で、誰もが半ば口を開けたまま、この途方もない光景を見つめている。
その中で最初に動いたのはイゼルローン要塞だった。司令官代理の志保の命令で、ガイエスブルグ要塞へ“雷神の鉄鎚(トールハンマー)”が発射されるが、被弾しながらもガイエスブルグは飛翔を止めない。
要塞は無人操縦で航行している。ケンプやミュラー、その他将兵は各艦に分乗して、イゼルローンへ近付きつつあるガイエスブルグを見つめている。一秒毎に接近し、姿を大きくするイゼルローン要塞を旗艦「ヨーツンハイム」で見たケンプは、逆転勝利への確信に満ちた表情を浮かべた。
 その時、同盟軍艦隊では、新一が命令を下していた―――要塞そのものに艦砲及びミサイルは通用しない。稼働中の通常航行用エンジンを狙え。それもただ一個、進行方向左端の一個に砲火を集中せよ!
各艦の砲術士たちは、操作卓(コンソール)に飛びつき、狙点を定め、新一の命令を待った。「レダⅡ」艦橋でガイエスブルグ要塞を見つめていた新一は腕組みを解いて右手を挙げた―――そして右手が振り下ろされると同時に彼の命令が下された。

「撃て(ファイヤー)!」

 数万のビームとミサイルが、ただ一つの通常航行用エンジンに集中した。それは複合装甲カバーに亀裂を生むには充分な負荷であった。第二射で亀裂は一気に拡大し、炸裂して白い閃光を飛散させた。
次の瞬間、ガイエスブルグは前進を止め、巨体をくねらせて急激にスピンを始めたのだ。宇宙船のエンジン推進軸は、厳密に船体の重心を貫いていなければならない。大小を問わず、宇宙船の形状が円または球形を基本とし、左右上下が対称となっているのは、そのためである。
もし、この法則を守らなければ、宇宙船は進む方向を見失い、重心を中心としてスピンを続ける事になる。その時は動力を停止すれば良いワケだが、停止しても惰性で回転は続くし、その間は全ての管制機能が麻痺してしまうのだ。
スピンしつつ帝国軍残存部隊の中に突入したガイエスブルグ要塞は、瞬時に数百隻の艦艇をその回転に巻き込み、破壊し、吹き飛ばした。通信回路の中で無数の絶叫が重なり合い、ナイフでも振るわれたように断ち切られ、要塞自体も味方艦艇との衝突で傷付いた。
 イゼルローン要塞でこの光景を目にした真は志保に近付くと、自分に砲撃の命令を執らせてくれるよう頼んだ。常に控えめな浅黒い肌を持つ男がこのような事を言うのは珍しいのだが、何か勝算があるのだろう、と、思った志保はそれを快諾した。

「“雷神の鉄鎚”砲撃用意!」

 真の落ち着いた声が要塞指令室内に響き渡った。スクリーンには回転するガイエスブルグ要塞が映る。何かタイミングを見計らっていた真が砲撃の命令を下した。

「撃て!」

 イゼルローン要塞から一条の光が迸り、それはガイエスブルグ要塞に直撃した。それも狙い澄ましたかのように、先程の砲撃で開いた破孔に突き刺したのである。
その一撃はガイエスブルグを貫通し、それが致命傷となって要塞は死の痙攣に囚われた。外壁の至る所に大小の赤い亀裂が生じ、それは徐々に増えて行く。
突然、赤い亀裂が白に変じ、亀裂が一挙に増大した。ガイエスブルグ要塞の核融合炉がその瞬間、爆発したのだった。要塞のあった位置に、目眩(めくるめ)く光の巨魁が出現した。

「全艦、最大戦速で離脱せよ!急げ!!」

 ケンプの命令と共に旗艦「ヨーツンハイム」が反転すると帝国軍もそれに倣い、一方の同盟軍も新一の命令で急速離脱した。
両軍艦艇のスクリーンは入光量調整システムの全機能を解放したが、光の塊を直視出来る者は一人もいなかった。人間の視界に対する光の侵略は、一分間以上続いた。
爆発光の最後の余光が消え去り、宇宙が原初の闇へ回帰すると、スクリーンに目をやった新一は艦隊識別帽(スコードロンハット)を脱いで、敗滅した敵に対して頭を垂れた。それは戦死した敵味方将兵に対して彼がする儀式であった。



 ガイエスブルグ要塞の爆発は、傷付き疲れ果てた帝国軍にとって、止めの一撃となった。
残存兵力の七割までが人工新星の爆発に巻き込まれ、助かった艦艇や将兵たちも、完全に無傷なのは殆どいなかった。
ケンプの旗艦「ヨーツンハイム」も通常航行に支障はないが、艦体の至る所に大小の傷を負い、司令官自身も身体に擦過傷や打撲の痕を作った。
司令官以上に重傷だったのは副司令官のミュラーである。彼は肋骨を四本折る重傷を負い、艦橋で応急処置を受けた。輸血を受け、鎮痛剤と解熱剤を注射されているミュラーにケンプから通信が入った。

「ミュラー、大丈夫か?」
「・・・私は大丈夫ですが、ケンプ提督は?」
「オレは大丈夫だ。それより卿の意見には従っておくべきだったな。すまない」
「それより、これからどうしますか?」

 その声に苦汁を舐めたかのような表情を浮かべたケンプだったが、すぐに表情を改めた。

「撤退する。ミュラー、卿は損害の大きい艦艇を率いて先に行け。オレは卿の後ろを守る」
「しかし、ケンプ提督・・・」
「心配するな。ローエングラム公に謝罪するまで死ぬワケにはいかんからな」

 やがて敗北に打ちのめされた帝国軍の生存者たちは、通信回路から流れる司令官の声を耳にした。それは力強く、理性と意志に富んだ明晰な声で、彼等の絶望を希望の方へ引き戻す効果があった。

「我が軍は敗れたが、司令部は健在である。司令部は卿等将兵の全員を、生きて故郷へ帰す事を約束する。誇りと秩序を守り、整然として帰途に着こうではないか・・・」

 故郷を出る時、一万六〇〇〇隻を数えた帝国軍は、その数を一〇分の一に減らし、無残な敗走を続けた。それでも、なお全面的瓦解に至らず、集団としての秩序を保ち得たのは、敗北の悔しさを微塵も見せず懸命に指揮を執るケンプとミュラーの功績であった事は疑いない。


「前方より艦艇群が接近!」

 その報告に、ウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将は艦橋のスクリーンを眺めた。
彼の旗艦「人狼(ベイオウルフ)」は、艦隊先頭集団の更に先頭にあり、その存在する位置自体が、彼の勇名の所以を物語っていた。臨戦態勢がしかれ、信号が放たれる。

『停船セヨ!シカラザレバ攻撃ス』

 慌ただしい一分間がそれに続き、ミッターマイヤーは前方の艦艇群が、配送して来る味方である事を知った。メインスクリーンの拡大投影を命じた彼は、その無残な姿に思わず唸った。
通信スクリーンにケンプと包帯だらけのミュラーが現れ、事情を説明すると“疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)”は、小さく溜め息を吐き、同盟軍が誇る名将を称讃せざるを得なかった。

「ケンプとミュラーを敗走させるとは、さすが工藤新一・・・卿等は後方へ赴いてローエングラム公に復命するが良い。復讐戦はオレとロイエンタールに任せてもらおう」

 通信を終えると、ミッターマイヤーは部下たちに向き直った。目は大きく開かれ、全身から鋭気を漲らせている。どちらかと言えば小柄な司令官の身体が、こういう時は巨漢のように部下を圧倒する。

「最大戦速で前進を続けろ!ケンプたちを追って来た敵の先頭集団に逆撃を加える。急襲して一撃、然(しか)る後に戦場から離脱する。それ以上の戦いは、この際、無意味だ。バイエルライン、ドロイゼン、ビューロー、例の指示に従って動け、良いな!!」 

 幕僚たちは敬礼で応え、部署に散った。後続のロイエンタールに通信が飛ぶ。ロイエンタールの副官エミール・フォン・レッケンドルフ大尉が、ミッターマイヤーからの伝言をもたらすと、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の青年提督は大きく頷き、僚友と同じ命令を下した。



 イゼルローン要塞は、同盟建国祭とダゴン星域会戦戦勝記念日とが同時に来たかのような歓喜と狂騒の中にあった。
なけなしのシャンペンが音高く抜かれ、非戦闘員たちは我が家に戻って荷物を置くと、将兵を出迎えるため、再び家を飛び出すのだった。志保と真は中央指令室のメインスクリーンを眺めながら、それぞれコーヒーと塩入り緑茶を飲んでいる。
 だが、新一はまだ我が家へ足を踏み入れるワケにはいかなかった。深追いを固く戒めたにも関わらず、グエン少将とアラルコン少将の部隊、合計四二〇〇隻が敗走する敵を追って執拗に進撃し、更に彼等を止めようと渉の分艦隊二五〇〇隻が回廊の奥深くへ向かっている。
グエン、アラルコンの両名は通信が完全に回復していない状態で、敗走する敵に食い付いて、そのまま急進してしまったのだ。渉とは辛うじて連絡がついたものの、彼は二人を連れ戻すべく移動していた。
慎重な性格の渉らしからぬ行動ではあったが、他人から何と言われようとも、追撃を阻止して味方を救おうとする彼の行動を新一は理解していたので、美和子に命じて艦隊を急速編成させると、最大戦速で移動を開始した。何としても彼等を連れ戻さなくてはならない新一だった。
 完全勝利に陶酔するグエンとアラルコンは、前方に立ち塞がるミッターマイヤーとロイエンタールの存在を知るよしもなかった。



 宇宙暦七九八年、帝国暦四八九年の四月から五月にかけて行われたイゼルローン回廊の攻防戦は、戦術的には多くの話題と教訓を後世に伝えたが、戦略的にはさして重要な意味を持たない、と、されている。
その戦いの最終章は、結果として、帝国軍の名誉を一部回復するものとなった。敗者よりもむしろ無秩序に追撃を続けるグエン、アラルコン両少将の部隊は、巧緻さと大胆さとの絶妙のコンビネーションによって作られた罠の中に引き摺り込まれていたのだ。

「後背から敵襲!」

 動転したオペレーターの報告が、同盟軍の勝利の夢を奪った。グエンは声を呑んで、指揮シートから立ち上がった。
回廊の天頂方向、航行不能な危険地帯に潜んでいた帝国軍が急降下して、同盟軍の後背を遮ったのである。ウォルフガング・ミッターマイヤー自身が指揮する最精鋭の部隊であった。
グエンやアラルコンが敗残兵と思い込んで追っていたのは、彼等を引き摺り込むために後退していたミッターマイヤー艦隊の半数だっだ。

「ケンプとミュラーの仇だ!一隻残さず、屠ってしまえ!!」

 命令、と、いうより、ミッターマイヤーは部下をけしかけたようなものだった。戦術的な勝利は既に収めた彼は、戦闘の運営を細かい指示より自然のダイナミズムに任せたのである。
同時に偽りの逃走を止めて反転したバイエルライン中将指揮下の部隊も、咄嗟に停止出来ないでいる追撃者たちに向かって全砲門を開いた。それは、同盟軍の艦艇が自ら光の壁へ突入していったような光景だった。
高密度のエネルギーの分子と超合金の分子が亜高速の相対速度で衝突し、半瞬の後、一方が敗れた。切り裂かれた艦体と四散する人体が無音の悲鳴で空間を満たした。
同盟軍の艦艇は、あるいは蒸発し、あるいは爆発四散し、あるいは切り裂かれて宙を舞い、帝国軍の前に絢爛たる死のタペストリーを織り上げ、それを目撃した者は、あまりに多彩で、あまりに華麗な光と色の乱舞に声を飲み込んだ。
前後から同盟軍を挟撃した帝国軍は、殆ど一方的に死者を弔う歌を合唱し続けた。第一小節で過負荷状態になったエネルギー中和磁場が破れ、第二小節で艦体の複合装甲が貫通され、第三小節で艦そのものが爆発し、かくて一つの弔歌が終わるのである。

「下だ!天底方向へ逃げろ!!」

 アラルコンは絶叫した。同盟軍の艦艇は、ミッターマイヤー艦隊の苛烈な攻撃を避け、天底方向へ奔(はし)った。逃走するにせよ反撃するにせよ、時間と空間を確保するためにはそれしかなかった。
だが、それは彼等の墓石の座標を僅かに移動させただけであった。彼等の行く手には、ミッターマイヤーに比肩する名将オスカー・フォン・ロイエンタールが、満を持して待ち構えていたのである。
全艦が主砲のエネルギーを充填し、指揮官の命令があり次第、同盟軍を砲火で引き裂こうと、牙を磨き上げて獲物の到来を待っていたのだ。彼等の鋭く光る戦意に満ちた目のすぐ前に、同盟軍は殺戮されるのを望むかのように舞い降りて来たのである。

「主砲、斉射三連!」

 ロイエンタールの命令と共に、無慈悲な砲火が同盟軍に叩き付けられた。光の剣が彼等を切り裂き、撃ち砕き、ある目的をもって作られた金属と非金属の物体を、何の意味も持たない数億の破片に変えて虚空にばらまいた。
狼狽の極みに達した同盟軍は、指揮系統の統一を失い、逃げ惑う家畜の群れと化した。帝国軍は数において勝り、戦術において勝り、指揮官において勝った。必勝のパターンを提示しているようなものだが、死に行く者はそれを後々の教訓にする事も出来ず、追い詰められ、粉砕され、蛍より儚い光芒を残して消え去った。

「コイツ等、本当に工藤新一の部下か?アムリッツァで戦った時は、こんなものではなかったぞ」

 むしろ苦々しげに“疾風ウォルフ”は独語した。傑出した指揮官を欠くと、軍隊とはこれほど弱体化するものか。
炸裂する光芒の渦中で、グエン・バン・ヒュー少将は旗艦「マウリア」もろともこの世から消滅した。六本ものエネルギー・ビームを同時に浴びたのである。
サンドル・アラルコン少将はグエンより長生きしたが、五分か、せいぜい一〇分ぐらいなものだった。彼の旗艦「マルドゥーク」は、光子ミサイルの直撃を受けて真っ二つにされたのである。
 そこへ渉が率いるイゼルローン駐留機動艦隊第一分艦隊が戦場に到着した。
彼はグエン、アラルコンの戦死により両提督が指揮していた部隊の指揮系統が乱れているのを知ると、旗艦「マサソイト」を前進させて敗残の味方の収容を図ると同時に帝国軍に逆撃を加えた。
戦意を刺激された帝国軍は、グエン、アラルコン艦隊から第一分艦隊に牙を向けたが、渉は味方の損傷艦艇を内側にして部隊を防御陣に編成し、新一率いる本隊が来るまで帝国軍の苛烈な圧力に耐えた。
帝国の名将ミッターマイヤーとロイエンタールが指揮する艦隊を相手に本隊の到着を待ち続けた第一分艦隊であったが、撃沈したり、大なり小なりの損害を受ける艦艇が続出した。渉が反撃を加えながら少しずつ後退するよう指示した時、敵ミサイルが「マサソイト」の艦橋付近で炸裂したのである。
 爆発の衝撃で、渉の身体は数メートル吹き飛ばされて床に激しく叩き付けられた。一瞬、遠くなりかける意識を懸命に引き戻すが、錆びた鉄の匂いがする赤黒い液体がこめかみ付近から滴り落ち、床を赤く染め上げた。

「提督!」
「オレより味方はどうなっている!無事か!!」

 先任参謀の千葉中佐の心配を振り払い、応急処置を受けながら防御戦の指揮を執り続ける渉の下に、本隊が到着する旨の電文が届けられた。

「ふう・・・さすがに帝国の双璧と戦うのは命懸けだし、精神的にもキツイな」

 力強さに欠ける声で呟いた渉は指揮シートに腰を下ろした―――本人はそうしたつもりだったが、額に巻いた包帯が新たな血を外に排出し続け、大量失血による貧血を起こして床に倒れ込んだのである。千葉が軍医を呼ぶ声が艦橋内に響いた。



「新たな敵艦隊接近!数は一万隻以上!!」

 オペレーターからその報告がもたらされた時、戦場の生者は、殆ど勝者のみとなっていた。ミッターマイヤーとロイエンタールは通信スクリーンを通じて話し合った。

「聞いたか、ロイエンタール」
「工藤新一ご自身のお出ましか。どうする、卿は戦いたかろう?」
「まあな。だが、今戦っても意味はない」

 戦況が不利になれば、新一はイゼルローン要塞に逃げ込むであろうし、帝国軍の戦線と補給線も、ほぼ限界に達している。ここは敵主力が到着する前に撤退すべきであろう、と、二人は結論を出した。
この程度の勝利でケンプやミュラーの大敗を償う事にはならないが、状況を無視して欲を出すと、碌な結果を招かないであろう。ミッターマイヤーが軽く舌打ちをした。

「最初に戦った連中は弱かったが、次に戦ったヤツはなかなかしぶとかった。あれが工藤新一の部下だろう。名将の下に弱将なし、と、いう事かな」
「全くその通りだ。しかし大軍どころか要塞まで動かして数千光年の征旅を企てたというのに、悉く挫折して、ひとり工藤新一に名をなさしめたのみか・・・やれやれだな」
「まあ百戦して百勝というワケにもいくまい―――これはローエングラム公の仰有りようだがな。工藤新一の首は何れ卿とオレとで頂く事にするさ」
「その件だが、ビッテンフェルトが一番欲しがっている。今回、新たにケンプとミュラーも加わった」
「なるほど、そいつは競争が激しくなりそうだな」

 不敵な笑みを交わすと、二人の青年提督は撤退の準備に掛かった。
麾下の部隊を一〇〇〇隻単位の集団に編成し、一集団が退けば、次の一集団がその後背を守る形で整然と退いて行く。
先頭はミッターマイヤーが統率して、後退する全軍の秩序を整え、最後尾はロイエンタールが指揮して、同盟軍が攻撃してきた時に逆撃を加える態勢をとり、完璧な撤退を行ったのだ。



 こうして、戦艦「ヒューベリオン」に移乗した新一がメルカッツ等と共に到着した時、見出したものは味方艦艇の残骸と傷付いた第一分艦隊、そして遠ざかる光点の群れだけあった。
無論、追撃を命じたりはせず、新一は生存者を救出してイゼルローン要塞に帰還するよう指示した。その最中に渉と話そうとした新一だったが、通信スクリーンに映ったのは分艦隊先任参謀の千葉である。

「千葉中佐、高木少将は?」
「提督は戦闘指揮中に負傷されて治療中です」
「何ですって!?千葉くん、詳しく説明して!」

 通信に割り込んで来たのは美和子だった。表情や声からして冷静さを欠いているのは誰の目から見ても明らかである。
千葉が軍医からの報告、と、前置きして渉の症状を説明する。脳震盪、裂傷、打撲、擦過傷、それに伴う出血と内出血、特に頭部の出血が酷い、と。

「高木くんの今の状況はどうなの?」
「今は医務室で休んでおられます」
「分かったわ、有り難う・・・司令官、話に割り込んで申し訳ありませんでした」
「いえ、オレも高木少将が無事だと聞いて安心しています。千葉中佐、高木少将を病院船に移乗させて速やかに要塞まで移送する手続きをとって下さい」

 千葉が了解したので、通信を終えた新一は幕僚たちを見渡した。
誰の顔も渉の生還に安堵する表情だったが、その中にも猪突した挙げ句に麾下部隊を壊滅させたグエン、アラルコン両少将に対する批判が込められている。そんな中、感嘆をを交えた口調で新一はこう言った。

「これが名将の戦いぶりだ。明確な目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する。ああでないとな」

 グエンやアラルコンにはそれが欠けていたのだ。この場で口に出して言うべき事ではなかったが、露骨に口に出したのは探だった。

「帝国の双璧を相手に高木少将の奮戦は敬意に値しますね。並み以下の指揮官なら壊滅させられていたでしょう・・・そう、あの無能な司令官たちみたいにね」
「おい、白馬!」
「失言でした。提督、申し訳ありません」

 口では謝罪した探だが、勝因のない勝利はあっても、敗因のない敗北はない、と、考える彼だった。グエンとアラルコンは敗れるべきして敗れたのだ。同情の余地はない、と、思った。
帝国軍の―――と、いうよりラインハルトの下に集う人材の豊富さはどうであろう。これに、あの赤毛の驍将ジークフリード・キルヒアイスが戦線復帰したら、新一に与えられる勝利のチャンスは極微少のものになるのは必至である。
“絶対零度のカミソリ”と称される参謀長の考えは、新一も口に出さないが充分に理解している。考えるだけで頭が痛くなるのだが、遠くの事も大事だが目先の事を片付けなくてはならないのだから。

「毛利少佐、全艦隊に帰還命令を伝えてくれ。それが終わったらコーヒーを頼む」
「はい、閣下」
「皆さんの艦隊指揮、進言等は見事なものです」

 メルカッツが、穏やかな実のこもった口調で新一にそう言った。彼は探たちが帝国軍の戦法を看破した事を同期生である新一に伝えたのである。

「オレはメルカッツ提督、そしてアイツ等を一番信頼してますから」

 そう言って新一は蘭の持ってきたコーヒーを口に含んだ。査問会で軟禁状態の時に出されたコーヒーより数十倍も美味い。彼女のコーヒーは何年経っても飽きない味である。



 僅か一六〇〇隻あまりに撃ち減らされたイゼルローン回廊派遣軍は、ミッターマイヤーとロイエンタールの両提督に守られて帝都オーディンに帰還した。
ガイエスブルグ移動要塞を失い、一万四〇〇〇隻近い艦艇、そして一五〇万以上の将兵を失っての無残な帰還であった。
過去の帝国軍はともかく、ラインハルトと彼の部下が、これほどまでに一方的な敗北を被った例はない。アムリッツァにおけるビッテンフェルト提督の失敗も、全体の勝利の中での小さな傷であるに過ぎなかった。
ミッターマイヤーとロイエンタールは、深追いしてきた敵に強(したた)かな逆撃を加えて、戦術の妙を示しはしたが、作戦全体の失敗を回復する事は出来なかった。
 ローエングラム公爵の、傷付けられた誇りが、雷霆(らいてい)となって、おめおめと生還したケンプとミュラーの頭上に降り注ぐであろう、と、誰もが予測した。
二人は元帥府に赴き、ラインハルトの前に跪(ひざまづ)いて罪を謝した。ケンプの顔には幾つかの傷や打撲痕があり、ミュラーに至っては血の滲んだ包帯を巻いたままの姿である。ケンプが主君に謝罪した。

「小官は、閣下より大命を仰せつかりながら、任務を果たす事かなわず、多くの将兵を失い、ミュラー副司令官の献策を無視して敵をして勝ち誇らせました。この罪、万死に値しますが、おめおめと生きて還りましたのは、事の次第を閣下にお知らせし、お裁きを待とうと愚考したからであります。敗戦の罪は全て小官にありますれば、ミュラー大将及び部下たちには寛大なご処置を賜りたく存じます」

 二人が同時に深々と頭を下げた時、ミュラーの包帯の端から赤い流れが生じて頬を伝わった。ラインハルトは、暫くの間、敗残の提督を凝視していたが、息を呑む近臣たちの前で、やがて言葉を発した。

「今回の作戦は私の罪であって、卿等の罪ではない。一度の敗戦は、一度の勝利で償えば良いのだ。遠路の征旅、ご苦労であった」
「閣下・・・」
「二人とも、傷が全快するまで養生せよ。然(しか)る後に、現役復帰を命じるであろう」

 二人は片膝を付いたまま更に頭を下げたが、ミュラーが不意に前にのめると、そのまま床に倒れ込んだ。長きに渡って心身の苦痛と緊張に耐え続けてきた彼は、気が緩んだ瞬間、失神したのであった。

「ケンプ、キスリング、ミュラーを病院へ運んでやるが良い」

 ラインハルトが命じると、彼の親衛隊長になったギュンター・キスリング大佐とケンプ、親衛隊員が協力してミュラーを病院へ運ばせた。人々は安堵し、若い主君が度量の広い人である事を喜んだ。
最初、オーベルシュタインから敗戦の報告を受けたラインハルトは激怒したのである。戦況が不利になり、撤退のやむなきに至る事はあっても、全兵力の九割を失うとは予想していなかった。当然、ケンプとミュラーには厳罰を加えようとしたのだが、それを止めたのはオーベルシュタインである。

「閣下、この作戦は最初から冒険的なものでありました。ケンプとミュラーを選んだ責任、そしてシャフトの無用な提案を採用した閣下と私にも責任があるものと存じます」
「ほう、卿らしくもない言葉だな」
「これはキルヒアイス提督の意見です。無論、私も提督の意見に賛同です」
「何だと?卿等は連携しているのか?」

 明らかに不機嫌な声でラインハルトは応じた。キルヒアイスとオーベルシュタインが会っている事が信じられないのだが、何より自分を差し置いて会っている事に腹を立てたのだ。
その件はさておいて、仮にキルヒアイスが入院加療しておらず自分の側にいた場合、アムリッツァ星域会戦の時にビッテンフェルトの失敗を赦すよう進言したのと同じく、ケンプとミュラーも赦すようラインハルトに頼んだに違いない。
 ケンプとミュラーに対して寛容を示したラインハルトであったが、科学技術総監シャフト技術大将に対しては全く別であった。

「弁解があれば聞こうか?」

 最初から糾弾の姿勢を見せたが、シャフトは自信満々でそれに応じた。

「お言葉ながら、閣下、私の提案にミスはございませんでした。作戦の失敗は、統率及び指揮の任にあった者の責任でございましょう」

 ケンプたちでさえ赦されたではないか、と、言いたげであったが、美貌の帝国宰相は低い冷笑で彼に酬いた。

「いたずらに舌を動かすな。誰が卿に対して、敗戦の罪を問う、と、言ったか。ケスラー、ここへ来て、コイツの罪状を教えてやれ!」

 靴音と共に一人の将官が歩み出た。ラインハルトによって、この年から憲兵総監兼帝都防衛司令官に任命されたウルリッヒ・ケスラー大将が鋭角な顔を科学技術総監に向け、鼻白んだ様子の相手に、厳格な態度で申し渡した―――収賄、公金横領、脱税等々。
六人の屈強な憲兵が、既にシャフトの周囲に威圧的な制服の壁を作っていた。科学技術総監の顔が、火山杯土を塗りたくられたような色に変わった。それは冤罪への恐怖ではなく、秘められた事実を暴露された事によるものだった。あくまでしらを切り通そうとしたシャフトだったが、左右から憲兵に両腕を取られると、彼は意味不明な喚き声を上げてもがいた。

「屑が!」

 遠ざかる喚き声を聞きながら、ラインハルトは嫌悪感を込めて吐き捨てた。蒼氷色(アイスブルー)の瞳には、一欠片の同情も浮かんではいなかった。これを機に、彼は科学技術総監部の濁った血を入れ替える事にしたのである。



 新一をはじめとするイゼルローン要塞と駐留機動艦隊の幹部たちに勲章が与えられる事が決定した頃、イゼルローン要塞の軍民兼用病院の一室に一組のカップルがいた。それは駐留機動艦隊副司令官の佐藤美和子少将と第一分艦隊兼先任分艦隊司令の高木渉少将である。
渉は、第八次イゼルローン要塞攻防戦の最終章で負傷し、入院加療中の身分であった。彼が入院して以来、美和子はほぼ毎日のように渉の見舞いに訪れている。病院側からすれば、なかなか微笑ましい光景だ、と、評判である。
その日も美和子は渉のところに見舞いに来ていたのだが、病室の外でスライド式のドアに耳を当てて、中の様子を聞き取ろうとしている不埒な人間の存在に気付いてはいなかった。ドアの外にいたのは工藤新一大将、京極真少将、白馬探少将、服部平次少将、黒羽快斗少将であり、ドアに張り付いていたのは平次と快斗である。

「オメー等・・・いい加減にしとけよな」
「そういう行為は、如何なものかと思いますが?」
「まあ、この二人は人をからかう事が趣味ですけど、バレても知りませんし、僕たち三人は関知しないですからね」
「今、良いトコなんや。黙っとらんかい・・・快ちゃん、どうや?」
「・・・今、佐藤さんがリンゴかナシの皮を剝いてるトコ・・・何か雰囲気だけで甘っとろい・・・何っ!?」
「どないしたんや、快ちゃん?」
「お、お互いに名前で呼び合ってる・・・こりゃ、白馬と紅子みたく“行き着くトコまで、行きましたーっ!”って、レヴェルだな」

 呆れる三人を他所に中の状況を実況する二人だが、高級士官が五人も集まれば注目されるのは当然であり、通り掛かった女性看護師が怪訝な顔をして五人を見た。
上司と同僚が部屋の外にいる事を知らず、病室内は快斗が言うように甘っとろい雰囲気に包まれていた。中の状況はというと、快斗が言ったように美和子がリンゴの皮を剝いてるのだが、手つきが危なっかしい。

「あ、あの、美和子さん・・・」
「何?今、ナイフを使ってるんだから話しかけないで」
「そりゃ見れば分かりますけど、一度切ってから、皮を剝いた方が簡単じゃないですか。それに肩と腕の力を抜いて下さい」
「イメージは出来てるのよ、イメージは。それに私がナイフを扱うのが得意な事くらい、渉も知ってるでしょ?」

 果物ナイフと戦闘用ナイフを一緒にされては困る、と、渉は思ったが、敢えて口にはしなかった。逆に自分のためにリンゴの皮を剝いてくれるのだから嬉しい事である。
漸くリンゴの皮を剝け終えた美和子が、渉にリンゴを差し出す。お礼を言って食べようとした彼の表情が微妙に変わった。それもそのはず、剝いた皮が異様に厚く実が小さいのだ。
下手に追及すると、平手か拳が飛んで来る可能性も否定出来ないため、黙って果実を口に入れて咀嚼する。病院食でも果物が出される事はあるが、それ以上に甘く感じられる。

「お腹も少し膨れたところで、渉に聞きたい事があるんだけど」
「何ですか?」
「渉と私はどれくらいの付き合いだったかしら?」
「そうですね・・・知り合ったのは士官学校で、彼氏彼女の関係になったのは三年くらい前ですかね」
「正確には三年と一一ヶ月だけどね。何か言いなさいよ!渉が負傷したって聞いた時は心配したんだから!!」
「・・・ホントは、もっと早く言うつもりだったんですが・・・美和子さん、オレと結婚して下さい」

 渉がそう言った瞬間、彼は美和子に引き寄せられていた。接近格闘術にあるスタンド式の肩固めだが、これは彼女の愛情表現の一つなのである。

「渉のバカ。遅過ぎるじゃない。私、三〇を越えちゃったのよ?二〇代までに結婚したかったんだけどなあ」
「そ、その件については、オレも反省してます・・・って、何故、ナイフを持ってるんですか?」

 美和子が果物ナイフを手にしたため、渉の顔が引き攣(つ)る。鋭い眼光をドアの方へ注いでいた美和子は持っていたナイフをドアに向けて投げつけた。
ドアにナイフが突き刺さると同時に、通路側でドタバタと物音がする。素早くドアへ移動した美和子が思いっきりドアを開けると、そこには腰を抜かした平次と快斗、そして二人を呆れた表情で見つめている新一、探、真がいた。

「服部くん、黒羽くん・・・何をしてるのかしら?」
「見舞いに来て、たまたま転んだだけですわ・・・な、快ちゃん?」
「平ちゃんの言う通りです。いや、ここの廊下、ワックスが利き過ぎて・・・」
「オレたちが止めるのを無視して、コイツ等、中の様子を聞いてましたよ」

 新一が暴露したため、美和子の表情が一気に豹変した。平次と快斗は新一に、何でばらすねん(ばらすんだ)、と、いう非難の眼差しを向け、逃げようとしたが、探と真が足を引っ掛けて二人を床に転がす。

「白馬、京極ハン、何するんや!?」
「オレたち、親友だろ?不幸はみんなで分かち合おうじゃねーか」
「何が不幸はみんなで分かち合おうだよ?自業自得じゃねーか。こういう時は佐藤さんに制裁をお願いするのが筋なんだが、その必要はなくなったな」

 新一がそう言ってニヤリと笑い、親指で通路を指し示す。その先には見舞い品を携えて、渉の見舞いに訪れた蘭、和葉、青子、紅子、園子、真純、恵子がいた。

「新一たちも高木少将のお見舞い?」
「ああ。序でに佐藤少将と高木少将の会話を盗み聞きしてた不逞なバカ二名を拘束したんだ。和葉ちゃん、青子ちゃん、後はお願いするよ」

「「へ~い~じ~(か~い~と~)」」

 鬼の形相を浮かべる二人に、思わず後退りする平次と快斗。“同盟軍の双璧”と称されるほど、勇猛さと闊達さに溢れる二人だが、今は、恐怖、と、いう文字しか顔に描かれていない。
瞬間、平次はハリセン、快斗はモップで制裁を食らってボロ雑巾と化して撃沈。当然、騒ぎを聞きつけた看護師から、病院内では静かにするように、と、こっぴどく怒られたのは言うまでもない。

「じゃ、オレたちも帰るぞ」
「えっ!?私たち、お見舞いに来たばかりなのに」
「高木少将には佐藤少将がついてるから心配いらねえよ・・・と、言うワケで、後はお願いします」

 美和子に見舞い品を渡すと、新一たちは談笑しながら病院を後にした後、渉の病室のドアが閉じられた。


 官舎に帰った新一は立体TV(ソリヴィジョン)でニュースを見ていたが、ネグロポンティ国防委員長が辞表を提出し、アイランズがそれに替わったのを知った。
両者ともトリューニヒト最高評議会議長の影響が著しく強い政治家であり、これによって軍事政策の変更がなされる可能性は皆無といって良かった。
ニュースでは新任のアイランズが、ネグロポンティの潔い出処進退を褒め称え、その政策を引き継いで行く事を表明した、と、いう内容を垂れ流している。
不愉快になった新一の元へ探から連絡が入った。内容としてはニュースで言っていた事と変わりはなかったが、二つの点については新一の不愉快さを更に増大させる結果になった。

「公式的には発表されていませんが、ネグロポンティ前国防委員長が国営水素エネルギー公社の総裁に就任するようです。どう思いますか?」
「どう思うも何も、完全な天下りじゃねーか。あの公社はトリューニヒト支持者で埋まってるのは白馬も知ってるだろ?」
「国民から徴収したお金の六~七割はそのままトリューニヒト閥の政治家の懐に入ってますからね。それと、まだ決定してないのですが、近いうちに法律が改正されるかも知れません」
「どういう事だ?」
「今回の工藤くんに対する査問が、軍人の専横を防ぐ事にあった、と、いう具合に美化されてるんです」
「なるほど。政府としてはオレを辞めさせたいが、辞めた後に政界に進出して、自分たちを脅かすのではないか、と、警戒してるワケか」
「その通りです。建て前は軍人の政界進出の抑制でしょうが、本音は工藤くんだけに集中って事でしょうね」

 探との会話を終えた新一は舌打ちをした。自分たちが作った法律や規則を万人が遵守しなければならない。その楽しみ、金銭では買えない楽しみがあればこそ、大金を投入して権力を握ろうとする。
阿笠、シャロン、そして父親から政治の腐敗の事を散々聞かされた新一にとって、政治の世界とは汚濁に満ちた世界である。少数の権力とは無縁な政治家が市民のために必死に頑張っているのに、多数の腐敗した政治家が市民に害をなしているのが、現在の同盟政府なのだ。



 それから一ヶ月後、要塞内にある教会で渉と美和子の結婚式が行われた。
教会から出て来た渉の姿は黄色のモールがついた白の儀礼服に儀礼刀、美和子は純白のウェディングドレスにヴェール、手にはブーケである。
当初、美和子は、ウェディングドレスより軍服で良い、と、主張したのだが、渉と女性陣、そして母親から猛反対されて渋々ながらドレスを着たそうだが、後で新一が蘭から聞いた話だと、まんざらでもなかったらしい。
まず恒例と化したブーケ・トスが行われたのだが、無数の手がブーケを掴もうとする中、それを取ったのは蘭であった。当然の結果だな、と、口元に笑みを浮かべた新一に対し、女性陣は蘭の持つブーケを物欲しそうな目で眺めるしかなかった。
そして次に待っていたのは儀礼服に身を固めた新一たちである。彼の号令の下、儀礼刀が突き上げられ、ゲートが作られた。その中を渉たちが歩いて行くと、ゲートの出口にいた新一が二人の前で儀礼刀を下ろす。

「お二人共、今宵は程々に」

 ニヤッと笑う新一に渉は苦笑しながら、何言ってるんだよ、と、呟いて儀礼刀を指で軽く跳ね上げた。二人がゲートを出るのを見計らって新一は平次と快斗に声を掛けた。

「服部、黒羽。二次会の幹事を頼むぞ」
「了解。祝い事やから、派手に明るく行こうや!」
「ここ最近は暗い話ばっかりだったんで明るく行こうぜ!」

 沸き上がる歓声と共に、新一は二ヶ月前の不愉快な事を忘れたかのような嬉しそうな表情を浮かべ、皆と一緒に移動した。 
宇宙暦七九八年、帝国暦四八九年は、まだその前半を終えただけである。銀河帝国と自由惑星同盟の双方を驚愕させる事件が発生するまで、なお一ヶ月を必要とした。





  続く








注:「銀河英雄伝説」は田中芳樹先生、「名探偵コナン」「まじっく快斗」は青山剛昌先生の著作物です。
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